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1950. Re[1949]:共分散分析の適用条件について 投稿者:杉本典夫 [URL] 投稿日:2023/08/07 (Mon) 10:43:01
>悩める開発担当者様
はじめまして、当館の館長を務めている”とものり”こと杉本と申します。当館の「統計学入門」を読んでいただき、ありがとうございます。m(_ _)m
ご質問にお答えします。

> 弊社の理解:
> 共分散分析の解析手順は、2つの前提条件①回帰の有意性、②回帰の平行性が
> 満たされた場合にのみ、③2群の差の有意検定を実施する。
> CRO見解:
> ①回帰の有意性を満たしていない場合でも、②回帰の平行性
> を満たしている場合には、③2群の差の有意検定を実施する。
これは貴社の見解が一般的ですね。
回帰直線の非平行性の検定は、群ごとの回帰直線の回帰係数が異なっているかどうかの検定です。そして回帰の検定は回帰係数が「0」かどうかの検定です。そのため回帰の検定結果が有意ではなく回帰係数がほぼ「0」の時は、回帰直線の非平行性の検定結果は必然的に有意ではなくなります。
しかしこの場合の非平行性の検定結果は「回帰直線が平行である」と解釈するのではなく、「非平行性の検定は無意味である」と解釈しなければなりません。
ただし回帰の検定には群ごとの回帰係数の検定と、全ての群の回帰直線が平行と仮定した時の回帰係数の検定の2種類があるという点に注意する必要があります。僕の「統計学入門」の共分散分析では両方の検定を行っています。しかし統計ソフトによっては、全ての群の回帰直線が平行と仮定した時の回帰係数の検定だけを行うものがあります。その場合、例えば1つの群の回帰係数が正で、もう1つの群の回帰係数が負の時、回帰の検定結果は有意ではなく、非平行性の検定結果だけが有意になることがあります。
そのため共分散分析の第1条件は「非平行性の検定結果が有意ではない」つまり「全ての群の回帰係数がほぼ同じと考えられる」です。そして第2条件が「回帰の検定結果が有意」つまり「全ての群において共変数が目的変数に同じような影響を与えていると考えられる」です。これら2つの条件が満足された時、はじめて共変数による補正平均値の差の検定が意味を持ちます。
非平行性の検定結果が有意ではなくても、共変数が目的変数に影響を与えていなければ、補正平均値の差の検定結果は単純な平均値の差の検定結果とよく似たものになります。

ただし重要な点は「共分散分析は後知恵であり、2群の背景因子が偏ってしまった時の苦肉の策である」という点です。
無作為割付が偏ってしまった時は割付失敗であり、厳密には再試験が必要です。試験結果に影響を与える背景因子は無数にあり、実際の試験で観測する背景因子はそのうちの代表的と考えられる項目にすぎせません。そしてある背景因子が偏っていたら、観測していない潜在的な背景因子も偏っている可能性が高くなります。
その場合、観測されている背景因子については共分散分析で偏りを補正することがある程度は可能です。しかし観測されていない潜在的な背景因子が偏っている時は、当然のことながら共分散分析で偏りを補正することは不可能です。
したがって医薬品の臨床試験では、背景因子が偏ってしまった時は参考までに共分散分析を用いた補正を行いますが、厚労省から再試験を要求されることがありますよ。
でも僕のこれまでの経験では(僕は食品関係CROの特別顧問をしています。σ(^_-))、トクホ食品の臨床試験では、背景因子が偏っていた時は共分散分析を用いた補正を行っておけば、厚労省から再試験を要求されたことはありませんでした。

以上、参考になれば幸いです。