玄関小説とエッセイの部屋小説コーナーいつかどこかで

【プロローグ】

やあ、ひさしぶり! 元気?

あれから僕等も色々あってね、今じゃあ、知ってのとおり伴ちゃんとミミちゃんもうまいこといっちゃって、こっちはあてられっぱなしだよ。 あ〜あ、ミミちゃんほど可愛くなくてもいーから、僕も彼女が欲しーなぁ……。

あれ? 知らなかったっけ、このこと? そーだっけねぇ。 ま、詳しいことはまたいつか話してあげるよ、何しろオモロかったんだからー。 もっとも僕にしてみりゃ、とんだ三枚目役だったんだけどね。

今日かい? 例によって、伴ちゃんの下宿に行くとこさ。 こないだね、大学の講義で統計学のレポート出すよう言われてね。 ほら、前にウチの大学の杉本先生の話、しなかったっけ? ……そうそう、あのイヤミなヤツ! 自分の講義下手なの棚に上げといて、やれ「君達は勉強不足だ」とか、やれ「やる気がない」だとか、ほんっとイヤミったらしーったらないんだからー!

んで、例によって例のごとく、伴ちゃんに助けてもらおうってわけ。 モチ、ミミちゃんも同じ講義取ってるから、来るはずだよ。 僕より前に実験終わってたから、もう行ってんじゃないかなぁ、彼女。

でもなんだね、伴ちゃんってほんと不思議なヤツだね。 講義中なんてね、ほとんど寝てるか、でなきゃポケーッとよそごと考えてるか、どっちかなんだよ。 こないだもね、物理だったか数学だったか、とにかく何かの講義中にね、頭かきながら一心不乱に何かやってるもんだから、見てたらね、なんとフケの数かぞえてんだぜー。 風呂に入らない日数と、フケの数との関係を研究してたんだって! あれでどーゆーわけかちゃんと講義の内容理解してるし、質問すれば教えてくれるんだから、一体どーゆー頭の構造してんだろうねぇ。

不思議って言えば、ミミちゃんだってそーとー変わってると思うよ。 確かに伴ちゃん、母性本能刺激するってのか、世話焼きたくなるってのか、そんなタイプはタイプだけど、何しろあの格好だろー? 背は低くて短足ガニ股だし、髪はボサボサだし、顔なんて人類ってより猿類だし、おまけに年がら年中すり切れたジーパンに下駄はいて、汚れきったシワシワカッター着てんだもんね。 今どき、本物の浮浪児だってあんなひどい格好してないよ。

ミミちゃん、一体全体、どこが良くって伴ちゃんなんかにホレちゃったんだろ? あんなに可愛いんだし、みんなが憧れてたのに、言い寄って来る男なんて見向きもしないで、自分から伴ちゃんにアタックしたんだもんねー。 美的感覚狂ってるとしか思えないよ、僕には。

もっとも伴ちゃんは一番の親友だし、ミミちゃんもいいコだから、何とか二人をくっつけよーとしたんだけどね、僕も。 それがさー、伴ちゃん、あのとおり純情だろー? 並大抵の苦労じゃなかったんだから、はっきり言って。

あっ、イカンイカン、こんなことしてたら遅くなっちゃう! ま、二人の話はまたにして、今日は急ぐから、じゃーね。

……え? 暇だから、一緒に行きたいって? 統計学に興味があるから、話が聞きたいって?

またまたー、そんなカッコいーこと言ってぇ。 ほんとは伴ちゃんの下宿で、コーヒーでも飲みたいだけじゃないのかい? でもまあ沢山の方が面白いし、二人とも喜ぶと思うから、いいよ、一緒に行こーか。

じゃあ、ついておいでよ!