玄関小説とエッセイの部屋作品紹介コーナーベストテンに加えたい推理小説

【ベストテンに加えたい推理小説】

某パソコン通信ネットでは、各種のベストテンを紹介した後、ベストテンから漏れた作品で、自分ならばベストテンに加えたいという作品を紹介し合いました。 その時僕が紹介した作品は次のとおりです。

○「伯母殺人事件」リチャード・ハル、創元推理文庫

クロフツ「クロイドン発12時30分」、アイルズ「犯行以前(レディに捧げる殺人事件)」と並ぶ3大倒叙推理小説のひとつです。 ユーモラスな語り口と意外な結末で、僕のお気に入りの作品です。

○「地下鉄サム」J・S・マッカレー、鱒書房

ニューヨークの地下鉄を縄張りとするスリの名人・サムを主人公とした、ユーモア推理小説の古典的名作。 ユーモアとペーソスにあふれた短編シリーズで、どことなくO・ヘンリーを思わせるところがあります。 手塚治虫もこの作品が好きだったのか、初期のSFマンガの傑作「太平洋X點(ポイント)」で、お馴染みのヒゲオヤジが元強盗団首領の”地下鉄サム”役で大活躍しています。

○「ドーヴァー4・切断」ジョイス・ポーター、早川推理文庫

推理小説史上最低最悪の探偵役と、とかく評判の高いドーヴァー警部が活躍するドタバタ推理小説。 ドーヴァー警部のメチャクチャな性格と支離滅裂な推理があまりに面白いので、赤川次郎がパクッていることでも知られています。 赤川次郎はこういったパクリが多いんですよね〜。

○「二人の妻をもつ男」パトリック・クェンティン、創元推理文庫

練りに練ったプロット、サスペンスあふれるストーリーテリング、意外な結末といった推理小説らしい特徴を持つと同時に、文学的な味わいも持ったサスペンス推理小説の傑作です。 いかにも映画向きの内容のため、昔、日本でTVドラマ化されたことがありました。 クェンティンはこういったサスペンス物を得意としていて、長編「わが子は殺人者」、短編「ある殺人者の肖像」といった同系統の佳作もあります。

○「Xの悲劇」「Yの悲劇」「Zの悲劇」「ドルリー・レーン最後の事件」エラリー・クイーン、田村隆一訳、角川書店

あまりにも有名な「ドルリー・レーン四部作」です。 緻密な構成と明快な論理性を持つ「Xの悲劇」は、合理性を重んじる欧米で好まれており、強烈な印象と名状しがたい余韻を残す「Yの悲劇」は、雰囲気を重んじる我が国で抜群の人気を誇っています。 「Yの悲劇」がこれまでに紹介した各種のベストテンに入っていますが、僕は全体として起承転結を構成する四部作全体を1つの作品とみなし、これこそ本格推理小説のベスト1だと考えていますので、あえて四部作全体を紹介しました。 と言いますのも、この四部作は本格推理小説の魅力を満喫させてくれる代表的作品であると同時に、その必然的な将来をも悲しく暗示しているように思えてならないからです。

名作だけに、色々な出版社から色々な人の訳本が出ていますが、僕は推理小説好きの詩人・田村隆一氏が訳したものが一番気に入ってます。

○「ペーパームーン」ジョー・デイヴィッド・ブラウン、ハヤカワ文庫

厳密には推理小説ではありませんが、すごく好きな作品なのでついでに紹介しておきます。 古き良き1930年代のアメリカを舌先三寸で渡り歩く、チャーミングでおませな女の子アディーと冴えない中年男ロング・ボーイの名コンビ、映画やTVでもお馴染みのユーモアとペーソスあふれる傑作ペテン師小説です。

珍しく原作も映画も両方気に入った作品で、ライアン・オニール&テイタム・オニールの親娘コンビが実にいい味を出していました。 特に、大人びたしぐさでタバコをふかすテイタムの愛くるしい表情が目に焼きついて忘れられません。

○短編作品

短編としてはロード・ダンセイニ「2びんのソース」、ウィルキー・コリンズ「人を呪わば」、ロナルド・A・ノックス「密室の行者」、コーネル・ウールリッチ(ウイリアム・アイリッシュ)「爪」、エラリー・クイーン「神の灯火」、ロアルド・ダール「南から来た男」、スタンリイ・エリン「特別料理」、アイザック・アシモフ「会心の笑い」などが気に入ってます。