玄関雑学の部屋雑学コーナーポビドンヨード含嗽の観察研究

7.ウイルス陽性頻度の謎

Day1〜Day4の陽性率の推移についてはMantel-Haenszel検定によって検討しました。 次の度数表はDay1〜Day4の度数表を合計したものです。

この表についても出現率の差の検定を行ってありますが、これは参考程度であり、「○全体」の下が目的の解析結果です。 「調整リスク差(risk difference)」はDay1〜Day4におけるポピドンヨード含嗽無群と有群の陽性率の差が全て同じとしたら、どの程度の差になるかを表す値です。 この値が「RD=-0.224111」ですから、ポピドンヨード含嗽有群の方が平均して約22%低いことがわかります。

調整リスク比(risk ratio)」はDay1〜Day4におけるポピドンヨード含嗽無群と有群の陽性率の比が全て同じとしたら、どの程度の比になるかを表す値です。 この値が「RR=0.629747」ですから、ポピドンヨード含嗽有群は無群の約0.63倍になることがわかります。 ただしリスク比は陽性率が小さい(10%未満)時の評価指標であり、本研究の場合は意義があまりありません。

調整オッズ比(odds ratio)」はDay1〜Day4におけるポピドンヨード含嗽無群と有群のオッズ(競馬のオッズと同じで、陽性率/陰性率という比)の比が全て同じとしたら、どの程度の比になるかを表す値です。 この値が「OR=0.365809」ですから、ポピドンヨード含嗽有群のオッズは無群の約0.37倍になることがわかります。 オッズ比はポビドンヨード含嗽の有無とRT-PCR検査の陽性/陰性の関連性の強さを表す指標であり、値が「1」から離れるほど関連性が強いと解釈できます。 ただしオッズ比は横断的研究や後ろ向き研究で用いられる評価指標であり、前向き研究である本研究の場合は意義があまりありません。

共通性の検定(修正有)」は調整リスク差が0かどうかの検定です。 この検定結果が有意水準5%で有意つまり有意確率p値が0.05以下の時は、「調整リスク差が0ではない」つまり「ポピドンヨード含嗽無群と有群の陽性率の差は0ではない」と95%以上の確率で結論できます。 このデータではp=0.00693785<0.05ですから、有意水準5%で有意です。

異質性の検定」はDay1〜Day4におけるポピドンヨード含嗽無群と有群の陽性率の差が全て同じかどうかの検定です。 この検定結果が有意の時は「4つ表の陽性率の差は全て同じとは言えない」つまり「4つ表の陽性率の差はバラついている(1つ以上の表の陽性率の差が他の表の陽性率の差とは異なっている)」と95%以上の確率で結論できます。 このデータの場合はp=0.696384>0.05ですから、有意水準5%で有意ではありません。

これは「4つ表の陽性率の差は全て同じ」という意味ではなく、「はっきりしたことが言えないので結論を保留する」という意味です。 そしてDay1〜Day4の陽性率の差(RD)を見ると、Day1:RD=-0.1275、Day2:RD=-0.27、Day3:RD=-0.2025、Day4:RD=-0.304762であり、Day1が少し小さく、Day4が少し大きいですが、だいたい同じと解釈して良いと思います。

この共通性の検定結果と異質性の検定結果から「Day1〜Day4の陽性率の差はだいたい同じぐらいで推移していて、平均すると約22%になる」と解釈できます。 これはプロトコールで規定されていた副次評価項目の解析結果のひとつです。

なおMantel-Haenszel検定は調整リスク差の検定であり、調整リスク比や調整オッズ比の検定ではありません。 調整オッズ比が0かどうかの検定はMantel-Haenszel検定の下に記載してある「ロジット検定」です。 この手法で求めた調整オッス比は、Mantel-Haenszel検定で求めた調整リスク比と調整オッズ比とは微妙に異なっています。 Mantel-Haenszel検定はあくまでも調整リスク差の検定であり、調整リスク比と調整オッズ比は近似的に求めた値です。 そのため調整オッズ比はロジット検定で求めた値の方が正確です。 ただし本研究の評価指標は調整リスク差なので、これらの値は参考程度です。

Day1〜Day4の陽性率の推移を解析した結果、奇妙なことに気が付きました。 大阪はびきの医療センターが発表した結果のうち、「ポビドンヨード含嗽によるウイルス陽性頻度の比較」と題した右側のグラフは、当然、Day1〜Day4の度数表を合計した度数表のパーセンテージだと思っていました。 ところが僕が例数を逆算した4つの度数表を合計した度数表の陽性率のパーセンテージ(ポビドンヨード含嗽無群60.3%、ポビドンヨード含嗽有群38.5%)がこのグラフと一致しないのです。

そこで手に入れた資料を色々と探したところ、「第1回開示請求 ポビドンヨードうがい会見資料」中の「⑦20200902195259.pdf」の78ページで次のようなグラフを見つけました。

このグラフは「ポビドンヨード含嗽によるウイルス陽性頻度の比較」と題したグラフの元グラフであり、パーセンテージではなく陰性と陽性の頻度(例数)をグラフ化したもののようです。 そしてオッズ比を計算したらしく、グラフの下に「odds比0.05」と記載されています。

ところがこのグラフはわかりにくい上に、ポビドンヨード含嗽無群と有群の例数がかなり偏っていることがわかってしまいます。 そこで発表直前に、このグラフをパーセンテージのグラフに差し替えたようです。 ところが慌てていたようで、グラフの表題を修正し忘れて元の「ポビドンヨード含嗽によるウイルス陽性頻度の比較」のままにしてしまったのはご愛嬌でしょう。 このグラフの数字を読み取って解析したところ、次のように陽性率のパーセンテージが発表されたグラフのパーセンテージと一致しました。

ところがこの表の合計例数が不可解なのです。 僕が逆算した4つの表を合計した表のポビドンヨード含嗽無群の合計例数は63例、有群の合計例数は96例です。 それに対して陽性頻度を読み取った表のポビドンヨード含嗽無群の合計頻度は103、有群の合計頻度は138であり、4つの表を合計した表の合計例数よりも多いのです! ポビドンヨード含嗽無群の例数を16例とすると103/16≒6.4になり、6日分以上の表を合計したことになります。 またポビドンヨード含嗽有群の例数を25例とすると138/25≒5.5になり、5日分以上の表を合計したことになります。

ポビドンヨード含嗽無群はプロトコール上はポビドンヨード遅延含嗽群であり、5日目〜8日目はポビドンヨード含有水でうがいをしたはずです。 そのため5日目以後のデータを比較に使うことはできません。 一方、ポビドンヨード含嗽有群はプロトコール上はポビドンヨード通常含嗽群であり、1日目〜8日目までポビドンヨード含有水でうがいをしたはずです。 そのため5日目以後のデータも使えることは使えますが、この群だけ5日目以後のデータも使うのは不公平です。

またこの表の陽性率についてオッズ比を求めたところOR=0.206422になり、陽性頻度のグラフの下に記載されていた「odds比0.05」とは一致しません。 そもそもオッズ比が0.05になるには、2群の陽性率がもっと極端に異なっている必要があります。 そのためもしかしたら「odds比0.05」は「odds比(p<0.05)」の記載ミスであり、本当は「オッズ比の検定結果が有意水準5%で有意」ということを表したかったのかもしれません。 いずれにせよ、どんな目的で、どのような方法でこのグラフを作成したかは謎です。

大阪はびきの医療センターのポビドンヨード含嗽の観察研究に関する憶測は、とりあえずこれで終わります。 この研究結果を発端にした「イソジン騒動」に関して、様々な教訓が読み取れると思います。 その中で僕が最も強調したい教訓は次のようなものです。(^_-)

数字でウソをつく時は、その道のプロに相談しましょう!
 あるいは
蛇の道は蛇!