表11.1の例では、生存率に影響を与える因子として手術法だけを取り上げています。 しかし実際の研究現場では、生存率に影響を与える因子が複数存在する場合が多いでしょう。 例えば表11.8のように、治療の有無と疾患の重症度が生存率に影響を与えているような場合が考えられます。
| 症例番号 | 治療 | 重症度 | 観察期間(月) | 転帰 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 無 | 重症 | 1 | 死亡 |
| 2 | 無 | 軽症 | 2 | 死亡 |
| 3 | 無 | 重症 | 2 | 死亡 |
| 4 | 無 | 軽症 | 3 | 死亡 |
| 5 | 無 | 重症 | 3 | 死亡 |
| 6 | 無 | 重症 | 3 | 死亡 |
| 7 | 無 | 軽症 | 4 | 死亡 |
| 8 | 無 | 軽症 | 4 | 死亡 |
| 9 | 無 | 軽症 | 4 | 死亡 |
| 10 | 無 | 症状無 | 5 | 死亡 |
| 11 | 無 | 症状無 | 5 | 死亡 |
| 12 | 無 | 軽症 | 5 | 死亡 |
| 13 | 無 | 重症 | 5 | 死亡 |
| 14 | 無 | 軽症 | 6 | 死亡 |
| 15 | 無 | 軽症 | 8 | 死亡 |
| 16 | 無 | 重症 | 8 | 死亡 |
| 17 | 無 | 軽症 | 9 | 死亡 |
| 18 | 無 | 症状無 | 12 | 死亡 |
| 19 | 無 | 症状無 | 12 | 死亡 |
| 20 | 無 | 軽症 | 12 | 死亡 |
| 21 | 無 | 重症 | 12 | 死亡 |
| 22 | 無 | 症状無 | 13 | 死亡 |
| 23 | 無 | 軽症 | 16 | 死亡 |
| 24 | 無 | 重症 | 27 | 死亡 |
| 25 | 無 | 症状無 | 28 | 死亡 |
| 26 | 無 | 症状無 | 28 | 死亡 |
| 27 | 無 | 軽症 | 31 | 死亡 |
| 28 | 無 | 症状無 | 32 | 脱落 |
| 29 | 無 | 重症 | 33 | 死亡 |
| 30 | 無 | 症状無 | 34 | 死亡 |
| 31 | 無 | 症状無 | 35 | 脱落 |
| 32 | 無 | 軽症 | 36 | 脱落 |
| 33 | 無 | 症状無 | 44 | 脱落 |
| 34 | 無 | 症状無 | 54 | 脱落 |
| 35 | 無 | 軽症 | 55 | 死亡 |
| 36 | 無 | 症状無 | 56 | 脱落 |
| 37 | 有 | 重症 | 3 | 死亡 |
| 38 | 有 | 重症 | 4 | 死亡 |
| 39 | 有 | 軽症 | 5 | 死亡 |
| 40 | 有 | 重症 | 5 | 死亡 |
| 41 | 有 | 軽症 | 7 | 死亡 |
| 42 | 有 | 重症 | 9 | 死亡 |
| 43 | 有 | 重症 | 10 | 死亡 |
| 44 | 有 | 重症 | 10 | 死亡 |
| 45 | 有 | 重症 | 11 | 死亡 |
| 46 | 有 | 軽症 | 13 | 死亡 |
| 47 | 有 | 症状無 | 14 | 死亡 |
| 48 | 有 | 症状無 | 18 | 死亡 |
| 49 | 有 | 軽症 | 18 | 死亡 |
| 50 | 有 | 重症 | 19 | 死亡 |
| 51 | 有 | 重症 | 19 | 死亡 |
| 52 | 有 | 軽症 | 21 | 死亡 |
| 53 | 有 | 重症 | 23 | 死亡 |
| 54 | 有 | 軽症 | 25 | 死亡 |
| 55 | 有 | 重症 | 26 | 脱落 |
| 56 | 有 | 症状無 | 27 | 死亡 |
| 57 | 有 | 軽症 | 28 | 死亡 |
| 58 | 有 | 軽症 | 28 | 脱落 |
| 59 | 有 | 軽症 | 30 | 死亡 |
| 60 | 有 | 重症 | 32 | 死亡 |
| 61 | 有 | 軽症 | 33 | 脱落 |
| 62 | 有 | 症状無 | 35 | 脱落 |
| 63 | 有 | 重症 | 37 | 死亡 |
| 64 | 有 | 軽症 | 49 | 死亡 |
| 65 | 有 | 軽症 | 52 | 脱落 |
| 66 | 有 | 症状無 | 54 | 死亡 |
| 67 | 有 | 症状無 | 56 | 死亡 |
| 68 | 有 | 症状無 | 58 | 脱落 |
| 69 | 有 | 軽症 | 59 | 脱落 |
| 70 | 有 | 症状無 | 60 | 脱落 |
このような場合に、複数の因子が生存率に与える影響を解析する手法として、多変量解析と生命表解析を組み合わせた「多変量生命表解析(multivariate life table analysis)」が開発されています。
多変量生命表解析の説明の前に、生存率に関する基本的な概念を説明しておきましょう。 累積生存率曲線を時間の関数として「生存関数(survival function)S(t)」で表すと、その典型的なグラフは図11.4のS(t)のようになります。 この時、累積死亡率の時間的な変化を表す関数を「死亡関数(death rate function)F(t)」とすると、これは1からS(t)を引いたものになり、そのグラフは図11.4のF(t)のようになります。
さらにF(t)を時間で微分したものをf(t)とすると、これは時点tにおける死亡率を表す関数であると同時に、生存時間の分布を表す関数にもなります。 f(t)は時点tにおける全例を分母とした時の死亡率になるため、これまで説明してきた瞬間死亡率、つまり時点tにおける生存者数でその時点の死亡者数を割ったものとは違います。 そこでf(t)を時点tの生存率であるS(t)で割って瞬間死亡率にしたものを「ハザード関数(hazard function)」といい、λ(t)と表します。
| f(t)= | d ― dt |
F(t)= | d ― dt |
{1-S(t)}=- | d ― dt |
S(t) |
| λ(t)= | f(t) ―― S(t) |
=- | 1 ―― S(t) |
{- | d ― dt |
S(t) | } |
原理的には、観測期間全体を通して患者が死亡するリスクが存在し、そのリスクの時間的な変化を表す関数がハザード関数λ(t)であると考えられます。 そしてそのリスクに晒されたために、時点tにおいてある割合の患者が死亡し、その死亡率の時間的な変化を表す関数がf(t)になります。 さらに観測開始時から時点tまでの累積死亡率を表す関数がF(t)、累積生存率を表す関数がS(t)になります。 したがって生存率を左右するのは実はハザード関数λ(t)であり、次のようにλ(t)からS(t)を理論的に導くことができます。
| ∫λ(t)dt=∫ | 1 ―― S(t) |
{- | d ― dt |
S(t) | }dt=-∫ | 1 ―― S(t) |
dS(t)=-ln{S(t)}+K (K:積分定数) |
最も単純な場合として、ハザード関数が常に一定という場合が考えられます。 この場合の各種の関数は次のようになり、例えばハザード関数の値が0.5の時は図11.4のようなグラフになります。
これは、鉄砲を構えた敵に向かって軍隊が突撃する時の生存率を表す関数になるため、「標的モデル」などと呼ばれることがあります。 例えば1時間あたりの鉄砲の命中率を50%とし、この命中率は時間経過によらず常に一定だとします。 この時、100名の軍隊が突撃すると、1時間後には50名が死亡して生存者は50名なり、さらにそれから1時間後には25名が死亡して生存者は25名になります。
このように1時間あたりの命中率つまり瞬間死亡率は常に50%ですが、時間が経つとともに死亡者数が減っていくため、生存率の減り方は次第にゆっくりになります。 図11.4を見ると、その様子が何となくわかると思います。