この章では時系列データと時系列解析の原理、そして解析結果の解釈について解説します。
時間の経過に従って連続的に測定された多時期のデータを「時系列データ(time series data)」といい、時系列データを解析するための手法を「時系列解析(time series analysis)」といいます。 例えば2名の被験者についてホルター型血圧計で収縮期血圧を24時間連続測定したところ、表12.1のようになったとします。 これは測定間隔(sampling interval)が1時間で、時期数が24個の時系列データになります。
| 被験者番号 | 0時 | 1時 | 2時 | 3時 | 4時 | 5時 | 6時 | 7時 | 8時 | 9時 | 10時 | 11時 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 107 | 95 | 93 | 112 | 82 | 114 | 105 | 123 | 135 | 135 | 140 | 137 |
| 2 | 100 | 90 | 91 | 122 | 92 | 110 | 106 | 124 | 155 | 165 | 165 | 160 |
| 平均値 | 103.5 | 92.5 | 92 | 117 | 87 | 112 | 105.5 | 123.5 | 145 | 150 | 152.5 | 148.5 |
| 被験者番号 | 12時 | 13時 | 14時 | 15時 | 16時 | 17時 | 18時 | 19時 | 20時 | 21時 | 22時 | 23時 |
| 1 | 147 | 138 | 115 | 161 | 160 | 123 | 142 | 155 | 135 | 131 | 129 | 123 |
| 2 | 157 | 148 | 145 | 151 | 160 | 133 | 122 | 145 | 155 | 135 | 120 | 101 |
| 平均値 | 152 | 143 | 130 | 156 | 160 | 128 | 132 | 150 | 145 | 133 | 124.5 | 112 |
表12.1の平均値を見ると、全体として夜間は低く、昼間は高いという傾向がありますが、細かい変動があるため、それ以外の規則的な変動があるかどうかははっきりしません。 そこで平均値の変動を平滑化して、全体的な傾向をより把握しやすくしてみましょう。 そのための最も単純な方法として、「移動平均法(moving average method)」という手法があります。
時系列データについて、ある時点tを中心にして、その前後k個のデータの平均値を計算したものを「時点tの移動平均(moving average)」といいます。 例えば表12.1の平均値について、1時を中心にして前後1個のデータ(合計で3個のデータ)の平均値つまり移動平均を計算すると次のようになります。
| 1時の移動平均= | 103.5+92.5+92 ――――――― 3 |
=96 |
移動平均は個々の被験者のデータについて計算することもできますが、ここでは2名の被験者の平均値について計算することにします。 これと同様にして2〜22時までの移動平均を計算し、それをプロットすることによって、元のデータに存在した1〜3時間単位の細かい変動をならして平滑化することができます。
ただしその場合、最初の0時と最後の23時については移動平均を計算することができません。 そのため0時と23時については移動平均をプロットしないという方法もありますが、1時と22時の移動平均から予測した値をプロットするという方法もあります。
例えば0時については、1時の移動平均から、2時と0時のデータの差の半分の値を引くことによって予測します。 この予測値は、0時のデータと2時のデータを直線で結び、その直線の重心を1時の移動平均の位置までずらした時の0時の値に相当します。
| 0時の予測値= | 103.5+92.5+92 ――――――― 3 |
- | 92-103.5 ―――― 2 |
=96+5.75=101.75 |
このような方法で全時点の移動平均を計算し、それをプロットしたものが図12.1の赤い折れ線です。 黒い折れ線は元データ、つまり2名の被験者の平均値を表しています。 この図の移動平均を見ると、夜間は低く、昼間は高いという傾向がより明確になり、さらに13時前後と18時前後に血圧が少し低下する傾向があることがわかります。 これは昼食時と夕食時に休憩を取り、それによって血圧が低下することを反映していると考えられます。
移動平均法には、単純な平均値の代わりに、時点tの前後k個のデータにp次多項式を当てはめ、その多項式からtの値を予測するという方法もあります。 平均値を用いた移動平均は、実は多項式として直線つまり1次式を用いた時のtの予測値であり、0時と23時の予測値もその1次式を用いた予測値に相当します。 (注1)
一般に、移動平均法はデータ数kを大きくするほど、また多項式の次数pを大きくするほど平滑化されます。 しかしkまたはpを大きくするほど移動平均をまともに計算できない最初と最後の部分が大きくなり、その部分の移動平均の信頼性が低くなってしまいます。 そこでkとpを色々と変えて移動平均を計算し、目的に最も適した値を探索する必要があります。
移動平均法は時系列データを平滑化し、データの変動に一定の傾向があるかどうかを視覚的に把握しやすくするための手法です。 そのため周期解析等の本格的な時系列解析を適用する時の前処理や、最適な時系列解析手法を検討するための予備解析として利用されるのが普通です。

(2k+1)>p
yjの予測値は、Xjの中央の行ベクトルxj'と偏回帰係数ベクトルbjを用いて計算します。

(j=k+1,…,n-k)
時系列データの先端部{y1,…,yk}と末端部{yn-k+1,…,yn}の予測値については、x1'…xk'とbk+1、そしてxn-k+1'…xn'とbn-kを用いて計算します。
(l=1,…,k)
(m=n-k+1,…,n)
測定間隔が等間隔の時は、時間の原点をtjに移動してtj=0とし、tj-k=-k、…、tj+k=kと置いて計算することができます。 測定間隔が等間隔で、k=p=1の時は次のようになります。


(j=2,…,n-1)
表12.1のデータについて、k=p=1として実際に計算すると次のようになります。



ちなみに、重回帰分析と同様にして予測値の信頼区間を求めることができます。 (→7.2 重回帰分析結果の解釈 (注3))
(j=k+1,…,n-k)
(l=1,…,k)
(m=n-k+1,…,n)