玄関小説とエッセイの部屋エッセイコーナーお宮さん騒動顛末記

【第1章 発端】

事の起こりは、1995年(平成7年)に宗教法人法が一部改正され、宗教法人の明細を証明する各種の公式書類を所轄庁に提出することが義務付けられたことでした。 例えば、それまでは神社の所有地などは簡単な見取り図を提出するだけで良かったところを、正式な登記簿謄本を提出する必要が出てきたのです。

そこで地元の神社の宮司さんに依頼されて、氏子総代さんが法務局から登記簿謄本を取り寄せたところ、神社の境内と参道の中に町の所有地と個人の所有地があり、しかも境内と参道の大きさと形が、先代の宮司さんが神社庁(地区の神社を包括する組織)に届けていた見取り図と食い違っていたのです!

驚いた氏子総代さんは、とりあえず神社の簡易測量を行って正確な現状を把握するとともに、歴代の氏子総代さん達や歴代の区長さん達に事情を尋ねました。 しかし関係者の多くが故人になってしまっていて経緯がわからず、良い対応策は見出せませんでした。 氏子総代さんは町会議員や町役場にも対応策を相談しましたが、経緯もはっきりしないし、政教分離の原則から、町役場としては対応のしようがないとのことでした。 しかしこのことが公になると非常に問題なので、今後も地元と町役場が相談しながら対応策を検討していくということにしたものの、実際には棚上げ状態のままになっていました。

棚上げ状態とは言うものの、神社の責任者である宮司さんは、毎年、区長が代わるたびに、神社の土地問題を早急に解決して欲しいと新任の区長に依頼していました。 しかし新任の区長は山ほどある自治会の仕事と町の仕事をこなすだけで精一杯で、地家の長老である氏子総代さんでさえ手に負えないこんな問題にかかずらう余裕は全くありませんでした。

この問題に手を出すには、

  1. 地元の歴史に詳しい
  2. 神社の事情に詳しい
  3. 土地の登記や権利等に詳しい

という条件を備えていて、さらにその上で、

  1. やっかいな問題にやたらと首を突っ込みたがる物好きである (^^;)

という条件を備えた人物が必要でした。 もちろん、そんな人物がおいそれと存在するはずはありません。

ところが2000年(平成12年)、この条件の中の4番目の条件だけを目一杯備えている人物が、ひょんなことから区長になりました。 その物好きな人物こそが、誰あろうこの僕でした。σ(^^;)

僕が区長になった時、前任者からの引継ぎ事項の中にこの神社の土地問題があ りました。 そして前任者は、この問題について次のようにアドバイスしてくれました。

「もし宮司さんから話があったら、”この問題は氏子総代が解決すべき問題であり、政教分離の原則から、特別公務員である区長が手を出すことはできない”と答えた方が良い」

これは、この問題が発覚した時の区長さんが、氏子総代さんから相談されて答えた逃げ口上(^^;)であり、それがそのまま代々の区長に引き継がれているようでした。

この問題を知った時、この問題に取り組むには上記の4つの条件を備えている必要があることがすぐにわかりました。 そして、僕が4番目の「物好き」という条件を十二分にクリアしていることには自信がありました。p(^^;)

また1番目の「地元の歴史に詳しい」という条件については、区長を引き受けることにした後、とりあえず地元の歴史を調べてみようと思い、歴代の区長経験者や地元の長老から色々と話を聞き始めていたので、この条件をクリアできる可能性があることがわかりました。

さらに3番目の「土地の登記や権利等に詳しい」という条件については、建売住宅を購入した時と、オヤジさんが死んだ時に土地の登記や名義変更などをしたことがあり、土地の登記や権利についてどこで何を調べれば良いのか、どんな所に相談すれば良いのかといったことだけは知っていたので、この条件もクリアできる可能性があることがわかりました。

最後に2番目の「神社の事情に詳しい」という条件については、パソ通仲間に神社関係のプロがいたので、この条件はクリアできる確信がありました。 他の条件はともかく、この2番目の条件と4番目の条件をクリアできるのは僕以外にはめったにいないだろうと思い、僕はこの問題に取り組む決心をしました。