玄関小説とエッセイの部屋エッセイコーナーお宮さん騒動顛末記

【第5章 実行】

まず手始めに氏子総代さんと宮司さん、そして文化財保存会の会長さんに神社の変遷と解決法、そして応急処置を説明し、納得してもらいました。

氏子総代さんは神社の変遷についてある程度のことは知っていたものの、土地の所有者の変遷などの詳しいことは知らなかったので、僕の調査結果に感心して大いに納得してくれました。

文化財保存会の会長さんは長年にわたって地区の文化財保存会の会長をされていて、私財を投じて地区の文化財と文化芸能を保存している尊敬すべき人物でした。 僕は自治会活動を通してこの会長さんと知りあい、お互いに意気投合したので、色々なことを相談し、助言してもらっていました。

会長さんは新興住宅の住人でしたが、非常に信頼できる人物でしたので、僕はお宮さん騒動の全てを説明して協力をお願いし、快諾してもらいました。 この人は退職前はマスコミ関係の仕事をしていて、宗教関係や法律関係にも詳しいため、はっきり言って氏子総代さんよりもよっぽど強力なブレーンになってくれました。

次に町役場に行き、同じことを担当者に説明しました。 担当者も納得し、解決法と応急処置にも基本的には賛同してくれました。

しかし参道の両側の公園を町有公園にする点について、思いがけない問題点を指摘してくれました。 それは「遊具を設置した町有公園は、安全のために周囲をフェンスで囲まなければならない」と条例で定められているという点です。 そのため参道の両側の公園を町有公園にするためには、遊具を撤去するか、それとも公園をフェンスで囲む必要があるのです。

第2章で説明したように、昭和40年代前半に、町の許可を得ることなくS団地付の町有公園に遊具を設置した人達はそのことを知らなかったのでしょう。 そして昭和40年代後半に、その遊具を参道の周囲に移転した人達も、当然、そのことを知らなかったはずです。 昭和40年代前半に公園に遊具を設置した時、周囲をフェンスで囲みませんでしたし、昭和40年代後半にその遊具を参道の両側に移転した時も周囲をフェンスで囲みませんでした。

町役場の担当者に指摘されて初めて気が付きましたが、地区にある遊具が設置された町有公園は確かに全て周囲がフェンスで囲まれていました。 遊具が設置されているにもかかわらず、周囲がフェンスで囲まれていない公園は参道の両側にある公園だけでした。

しかし公園は参道の両側にあるため、公園をフェンスで囲むということは、結局のところ参道がフェンスで囲まれることになります。 そうなると神楽が参道を通れなくなるため、神楽倉庫から神楽を出し入れするのが非常に面倒になってしまいます。 また参道がフェンスで囲まれるというのは、そもそも不自然です。

したがって現実的には遊具を撤去するしかないことになります。 そして遊具は地区の人達が勝手に設置したのですから、土地交換前に地区の責任で撤去する必要があります。 しかし公園は主としてS団地の子供達が利用していて、掃除や草取りなどの日常管理はS団地の人達が交代で行っていました。 そのため遊具を撤去するには、S団地の人達に了承してもらう必要があります。 そしてそのためには公園の歴史的経緯をS団地の人達に説明する必要があり、必然的にお宮さん騒動の内容を説明することになります。

しかし事情が事情だけに、それはできるだけ避けたいところでした。 そこで町役場の担当者や氏子総代さん達と相談し、S団地の人達に対して次のような説明をすることにしました。

  1. 公園の遊具を修理してもらおうと町役場に申請したところ、遊具は公園ができた時に地区の人達が町の許可を得ずに設置したものだった。
  2. しかも町には新公民館が建っている場所が町有公園として登録されていて、参道の両側の現在の公園は町有公園ではない。
  3. 以前は新公民館が建っている場所に遊具が設置されていたが、公園に新公民館を建てたため、また町に許可を得ずに遊具を参道の両側に移転してそこを勝手に公園にした。
  4. しかしそこは神社の土地のため名目上は神社所有の公園になり、管理責任は町ではなく神社にある。そのため神社から町に土地を寄付してもらい、町有公園にするのが良いと思う。
  5. ところが町有公園は、遊具を設置すると周囲をフェンスで囲む必要があると条例で定められている。
  6. しかし公園をフェンスで囲むと参道を神楽が通れなくなり、神楽倉庫からの出し入れが非常に面倒になる。 そのため町有公園にするのならば、遊具のない公園にする必要がある。
  7. そこでS団地の子供達のために、まずはS団地周辺の町有公園の遊具を整備、増設してもらうように町役場に申請したい。
  8. その後で土地を町に寄付し、最終的には遊具のない町有公園にするのが良いと思う。

この「お宮さん騒動顛末記」を最初から読んだ人にはお分かりのように、この説明はウソではありませんが、全ての事情を正直に説明しているというわけではありません。 このあたりも”悪徳窓際幽霊社員”の面目躍如たるところです。v(^^;)

説明方針が決まると、S団地の代表者に依頼して団地の集会を開いてもらい、この内容を説明しました。

S団地は典型的な新興住宅地であり、多くの住人は地区のことには無関心です。 そして自治会活動にも消極的で、何かと理由をつけて自治会役員になるのを避けようとします。 特に最も面倒で苦労が多い区長役については、団地が建設されてから現在まで役を引き受けるのを頑なに拒み続けています。

S団地は地区で最初にできた新興住宅で、建設された当初は地区の事情に疎いからという理由で区長役を免除されていました。 その後、他の新興住宅が次々と建設され、新興住宅にも区長役が回ってくるようになりました。 ところがこの団地だけは最初の約束を盾にして区長役を拒み続けていて、他の新興住宅の顰蹙を買っているのです。

そして事が我が身に降りかかりそうになると、やたらと屁理屈をこねて我侭を言い、自治会役員に理不尽な文句をつけて反対したがるジコチューな人がけっこういます。 そのため説得するのにやたらと苦労しましたが、最終的には僕の舌先三寸(^^;)で、お宮さん騒動のことを気付かれることなく、何とか団地の人達の了承を得ることに成功しました。

お宮さん騒動全体の中で、このS団地の説得工作が最も苦労し、かつ気を使ったことです。 これを無事にクリアしたことにより、僕的にはお宮さん騒動はほぼ解決したも同然になり、後は事務的な手続きの問題だけになりました。

この時の説明ではわざと触れず、氏子総代さんや文化財保存会の会長さんにもあえて説明しませんでしたが、遊具の撤去費用は僕の区長報酬(つまり僕のポケットマネー)で負担するつもりでした。

遊具は地区が勝手に設置したものであり、しかもそれが神社の土地に設置してあるのですから、当然、その撤去費用を町で負担するわけにはいきません。 公園に関する神社と自治会の賃貸契約が締結されれば、撤去費用は自治会で負担することになります。 しかしこの賃貸契約は、自治会の総会で承認された後でなければ締結できません。

この賃貸契約については、S団地に説明した内容よりもさらに簡単な内容で説明可能なので、お宮さん騒動のことを気付かれることなく承認を得られる自信がありました(実際、後の総会でその通りになりました。v(^_-))。 しかし総会で承認される前に、フライング的に撤去費用を自治会で負担するのは避けた方が無難です。 神社で負担すればどこからも文句は付けられませんが、解決法1の費用のことを考えると神社会計の負担はできるだけ減らしたいところです。

そういったモロモロの事情を考慮して、遊具の撤去費用を僕の区長報酬からこっそり出すことにしたのです。 「選挙四方山話」の第4章の1で説明したように、僕は町から報酬を貰うのがシャクだったので、区長の仕事をするための表に出せない裏金(^^;)として区長報酬を利用しました。 そのため、お宮さん騒動の原因解明のための調査費も、遊具の撤去費用も全て区長報酬から出しました。