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13.3 勾配比検定法

(1) 勾配比検定法の原理

多くの薬物は対数用量と反応が正比例しますが、用量そのものつまり実用量と反応が正比例するものがたまにあります。 第2節で説明したように、対数用量と反応が正比例する時は対数用量反応直線を利用して2つの薬剤の対数用量の差を求め、それを指数変換することによって用量比つまり効力比を求めます。 そして未知検体と標準検体の効力比を求めるには平行線検定法を利用します。

それに対して実用量と反応が正比例する時は、用量反応直線を利用して2つの薬剤が同じ反応をする時の用量比つまり効力比を直接求めます。 そして未知検体と標準検体の効力比を求めるには勾配比検定法(slope ratio assay)という手法を利用します。 これは用量反応直線の傾き、つまり勾配の比を利用して効力比を求める手法です。

未知検体が標準検体を希釈または濃縮した物質と見なせる時、未知検体中には標準検体の何分の1または何倍かの活性物質が含まれていると見なせます。 例えば未知検体が標準検体を2倍に濃縮した物質と見なせる時は、未知検体1mg中には標準検体1mg中に含まれる活性物質の2倍の量の活性物質が含まれていると見なせるわけです。 そのため標準検体の用量が0mg→1mg→2mgと増加した時に反応が0→10→20と増加したとすると、未知検体の用量が0mg→1mg→2mgと増加した時、反応は0→20→40と2倍のペースで増加するはずです。

このことから未知検体と標準検体の用量反応直線はy切片(定数)が同じで傾きが2対1になると考えられ、両者の傾きの比がそのまま効力比になると考えられます。 これが勾配比検定法の原理です。

(2) 勾配比検定法の試験デザイン

勾配比検定法を適用するには未知検体と標準検体について複数の用量について反応を調べたデータが必要であり、平行線検定法と同様に2×2点法(2-2点法)2×3点法(2-3点法)といった試験デザインが考えられます。 そして用量が0の時の反応が理論的に0ではない時は、検体を投与しないブランク群を置いて、用量反応直線のy切片がブランク群の反応と一致するかどうかを検討します。 用量反応関係が直線で近似できる最大用量は第1節で説明した用量反応試験を利用してあらかじめ求めておきます。

例えば標準検体Sの用量を5mg/kg、10kg/mgの2用量、未知検体Uの用量を1mg/kg、2mg/kgの2用量とし、さらに検体を投与しないブランクB(非投与群)も置いて、各用量に4匹のマウスを無作為に割りつけて反応を観察したところ表13.3.1のようになったとします。

表13.3.1 勾配比検定法のデータ
群内No.ブランクB標準検体S未知検体U
非投与群5mg投与群10mg投与群1mg投与群2mg投与群
131017812
24916813
34915912
451015813
平均値49.515.758.2512.5
標準誤差0.410.290.480.250.29

このデータについて標準検体Sと未知検体Uごとに用量反応直線を求め、それをグラフ化すると図13.3.1のようになります。 この図の黒色のプロットはブランクBの平均値であり、2本の用量反応直線のy切片がBの平均値にほぼ一致することがわかります。

○標準検体S
用量反応直線:y=3.25 + 1.25x … 図13.3.1の青色の青い直線
寄与率:r2=1(100%)
○未知検体U
用量反応直線:y=4 + 4.25x … 図13.3.1の赤色の直線
寄与率:r2=1(100%)
y:反応  x=D:用量
図13.3.1 2本の用量反応直線

これらの用量反応直線を利用して効力比を求めることができます。 例えば図13.3.1において反応が10の時の効力比を求めると次のようになります。

標準検体Sの用量:10=3.25 + 1.25x → x=D=5.4
未知検体Uの用量:10=4 + 4.25x → x=D=1.411765
効力比(用量の比):R=5.4/1.411765=3.825

上記の結果から、反応が10の時、Uの1mgはSの3.825mgに相当することがわかります。

(3) 勾配比検定法の結果の解釈

表13.3.1のデータの場合、SとUの用量反応直線のy切片がわずかに違うため反応によって効力比が少し異なります。 そこでSとUの用量反応直線のy切片が同じと仮定して効力比を求めれば、反応によらず効力比が一定になります。 これが勾配比検定法です。 表13.3.1のデータに勾配比検定法を適用すると次のようになります。 (注1)

表13.3.2 勾配比検定法の分散分析表
要因平方和SS自由度φ平均平方和Ms(分散V)分散比F
検体差200.252100.125200.25
S:回帰78.125178.125156.25
S:ズレ0000
U:回帰36.125136.12572.25
U:ズレ0000
切片差0.22510.2250.45
共通回帰314.1142157.057314.114
ズレ合計0000
ブランク差0.16071410.1607140.321429
用量314.5478.625157.25
残差7.5150.5 
全体32219 
○検体差の検定:FPREP=200.25(p=1.51845×10-11)>F(2,15,0.05)=3.682 … 有意水準5%で有意
○標準検体S
 回帰の検定:FβS=156.25(p=2.46944×10-9)>F(1,15,0.05)=4.543 … 有意水準5%で有意
 y切片が同一の用量反応直線:y=3.89286 + 1.17286x
○未知検体U
 回帰の検定:FβU=72.25(p=4.04949×10-7)>F(1,15,0.05)=4.543 … 有意水準5%で有意
 y切片が同一の用量反応直線:y=3.89286 + 1.17286x
○切片差の検定:FIDIF=0.45(p=0.512533)<F(1,15,0.05)=4.543 … 有意水準5%で有意ではない
○共通回帰の検定:Fβ=314.114(p=5.72723×10-13)>F(2,15,0.05)=3.682 … 有意水準5%で有意
○ブランク差の検定:FBI=0.321429(p=0.579136)<F(1,15,0.05)=4.543 … 有意水準5%で有意ではない
○用量の検定:FD=157.25(p=4.72543×10-12)>F(4,15,0.05)=3.056 … 有意水準5%で有意
○効力比:R=3.67844
 95%信頼区間:RL=3.3166  RU=4.05345

表13.3.2の分散分析表においてU:ズレと切片差の間に隙間があり、ブランク差と用量の間にも隙間があるのは、検体差からU:ズレまでの平方和および自由度を合計したものと、切片差からブランク差の平方和および自由度を合計したものが等しくなり、さらにそれが用量の平方和および自由度に等しくなるからです。 そして一元配置型回帰分析と同様に、用量以下は通常の一元配置分散分析表に相当します。

検体差の検定はBの反応平均値とS全体の反応平均値とU全体の反応平均値がばらついているかどうかの検定です。 表13.3.1のデータを用いて計算するとS全体の反応平均値が12.625、U全体の反応平均値が10.375で、Bの反応平均値は4です。 この3つの平均値はSとUの用量をどのように設定するかによって変わるため、値にも検定結果にも実質的な意味はありません。

Sの回帰の検定はSだけで求めた用量反応直線の傾きが0かどうかの検定です。 Sのズレの検定も行うことができますが、このデータは2用量しかないためズレはありません。 Uの回帰の検定とズレの検定についてもSと同様に解釈します。

切片差の検定はSの用量反応直線とUの用量反応直線のy切片の差が0かどうかの検定です。 この検定結果が有意の時はSの用量反応直線のy切片とUの用量反応直線のy切片に差があることになり、2本の用量反応直線は用量が0の点で交差せず、どこか別のところで交差します。 その結果、反応の値によって効力比が変化するため、単純に一方の効力が高いとは言えなくなります。

共通回帰の検定はy切片が同一のBとSとUの用量反応直線の傾きの合計が0かどうかの検定です。 これは他の統計量を計算するために求めているだけであり、実質的な意味はありません。 ズレ合計の検定も行うことができますが、このデータはSもUも2用量しかないためズレはありません。 またズレの検定は検体ごとに行った方が正確なため、この検定結果は参考程度です。

ブランク差の検定は、SとUのデータだけ用いて計算したy切片が同一のSとUの用量反応直線のy切片と、Bの平均値の差が0かどうかの検定です。 この検定結果が有意の時は用量反応直線のy切片とBの平均値が異なる、つまり用量が0に近づくと用量反応関係が直線からずれることになります。 その場合はSとUのデータだけ用いて再計算します。

用量の検定は反応平均値が用量または検体によって変動するかどうかの検定です。 この検定結果が有意ではない時は用量反応関係がなく、しかもBの反応とSの反応とUの反応に違いがないことになり、勾配比検定法を適用すべきデータではないと考えられます。

(4) 勾配比検定法の特徴

以上のことから、求められた効力比が意味を持つのは次のような条件を満足する時です。

  1. 用量の検定結果が有意で、各用量群の反応平均値が科学的に意義のあるほどばらついている
  2. 切片差の検定結果が有意ではなく、2群のy切片がほぼ同じ
  3. SとUの回帰の検定結果が有意で、かつズレの検定結果が有意ではなく、用量反応関係を直線で近似できる

ただし平行性検定法と同様に、この手法の検定もたいていは有意性検定になります。 そのため検定結果よりも用量反応直線と寄与率そして効力比とその95%信頼区間を医学的・薬学的に検討する方が有意義です。 勾配比検定法は未知検体と標準検定の用量の単位が同一であり、しかも用量反応直線のy切片がほぼ同じという前提で計算します。 そのため未知検体は標準検体を希釈または濃縮した物質と見なせ、しかも実用量と反応が正比例する時に最も適した解析法です。


(注1) 表13.3.1を一般化すると次のようになります。

表13.3.3 勾配比検定法の一般的データ
群内No.ブランクB標準検体Sの実用量未知検体Uの実用量全体
x0=0x1xixaS xaS+1xa
1y01y11yi1yaS・1 yaS+1・1ya1
::::: ::
jy0jy1jyijyaS・j yaS+1・jyaj
::::: ::
riy0・r0y1・r1yi・riyaS・r(aS) yaS+1・r(aS+1)ya・ra
T0.T1.Ti.TaS. TaS+1.Ta.TT
平均値m0.m1.mi.maS. maS+1.ma.mT

勾配比検定法ではデータyijを次のように3通りに分解して考えます。

基本式:
:検体別回帰式による推定値 (k=B,S,U aB0=m..B、bB0=0)
:SとUだけから求めたy切片が同一の共通回帰式による推定値 (k=S,U)
:BとSとUから求めたy切片が同一の共通回帰式による推定値 (k=B,S,U bB2=0)
m..k:検体別反応平均値 (k=B,S,U m..B=m0.)   xi=Di:用量

この基本式に対応する平方和と自由度と分散、そして直線回帰式を求めると次のようになります。

総例数:
○全体:  φT=N - 1   
○用量:  φD=a   
○検体差:
NB=r0  m..B=m0.
  
  
φPREP=3 - 1=2  
○Sの回帰:   


φβS=1        aS0=m..S - bS0mxS
○Sのズレ:

φLOFS=(aS - 1) - φβS=aS - 2   
○Uの回帰:



φβU=1        aU0=m..U - bU0mxU
○Uのズレ:

φLOFU=(a - aS - 1) - φβU=(a - aS) - 2   
○SとUだけの共通回帰:
この時の重回帰モデル:=1β1 + ε1
  
     
  
SβS1=bS1SxyS1   SβU1=bU1SxyU1  φβ1=2
○BとSとUの共通回帰:
この時の重回帰モデル:=2β2 + ε2
     
  
SβS2=bS2SxyS2   SβU2=bU2SxyU2  φβ2=2   
○切片差:

φIDIF=(2 - 1) + 2 - 2=1   
○ズレ合計:SLOF=SLOFS + SLOFU   φLOFLOFS + φLOFU=a - 4   
○ブランク差:
φBI=(2 - 1) + 2 - 2=1   
○残差:   φRT - φD=(N - 1) - a   
○効力比:
効力比の(1-100α)%信頼区間:

CSS:[2'2]-1の(2,2)要素   CUU:[2'2]-1の(3,3)要素   CSU=CUS:[2'2]-1の(2,3)要素=(3,2)要素

これらの平方和の関係をグラフで表すと図13.3.2のようになり、模式図で表すと図13.3.3のようになります。 そして平方和と自由度と分散を表13.3.4のような勾配比検定法の分散分析表にまとめます。

図13.3.2 勾配比検定法のグラフ的解釈 図13.3.3 平方和間の関係
表13.3.4 勾配比検定法の分散分析表
要因平方和SS自由度φ平均平方和Ms(分散V)分散比F
検体差SPREPφPREPVPREPFPREP=VPREP/VR
S:回帰SβSφβSVβSFβS=VβS/VR
S:ズレSLOFSφLOFSVLOFSFLOFS=VLOFS/VR
U:回帰SβUφβUVβUFβU=VβU/VR
U:ズレSLOFUφLOFUVLOFUFLOFU=VLOFU/VR
切片差SIDIFφIDIFVIDIFFIDIF=VIDIF/VR
共通回帰Sβ2φβ2Vβ2Fβ2=Vβ2/VR
ズレ合計SLOFφLOFVLOFFLOF=VLOF/VR
ブランク差SBIφBIVBIFBI=VBI/VR
用量SDφDVDFD=VD/VR
残差SRφRVR 
全体STφT 
○検体差の検定
帰無仮説 H0:BとSとMの反応平均値が一致している
FPREP>F(φPREPR,α)の時、有意水準100α%で有意
○S:回帰の検定
帰無仮説 H0:Sの用量反応直線の傾きが0である(βS0=0)
FβS>F(φβSR,α)の時、有意水準100α%で有意
○S:ズレの検定
帰無仮説 H0:Sの用量反応直線と反応平均値の変動が一致している
FLOFS>F(φLOFSR,α)の時、有意水準100α%で有意
○U:回帰の検定
帰無仮説 H0:Uの用量反応直線の傾きが0である(βU0=0)
FβU>F(φβUR,α)の時、有意水準100α%で有意
○U:ズレの検定
帰無仮説 H0:Uの用量反応直線と反応平均値の変動が一致している
FLOFU>F(φLOFUR,α)の時、有意水準100α%で有意
○切片差の検定
帰無仮説 H0:SとMの用量反応直線のy切片の差が0である
FIDIF>F(φIDIFR,α)の時、有意水準100α%で有意
○共通回帰の検定
帰無仮説 H0:BとSとUから求めたy切片が同一の用量反応直線の傾きが全て0である(βS2U2=0)
Fβ2>F(φβ2R,α)の時、有意水準100α%で有意
○ズレ合計の検定
帰無仮説 H0:SとUの用量反応直線と反応平均値の変動が一致している
FLOF>F(φLOFR,α)の時、有意水準100α%で有意
○ブランク差の検定
帰無仮説 H0:SとMだけで求めたy切片が同一の用量反応直線のy切片とBの反応平均値が一致している
FBI>F(φBIR,α)の時、有意水準100α%で有意
○用量の検定
帰無仮説 H0:平均値が用量によって変動しない(用量反応関係がなく、検体差もない)
FD>F(φDR,α)の時、有意水準100α%で有意

表13.3.1のデータについて実際に計算してみましょう。

N=20
ST=32 + 42 + … + 132 - 20×102=2322 - 2000=322   φT=20 - 1=19
SD=4×(42 + 9.52 + … + 12.52) - 20×102=2314.5 - 2000=314.5   φD=4  
NB=4 m..B=4   NS=8 m..S=12.625  NU=8 m..U=10.375
SPREP=(4×102 + 8×12.6252 + 8×10.3752) - 20×102=2200.25 - 2000=200.25
φPREP=3 - 1=2   

SxxS=4×(52 + 102) - 8×7.52=500 - 450=50
SxyS=4×(5×9.5 + 10×15.75) - 8×7.5×12.625=820 - 757.5=62.5
  φβS=1   VβS=SβS=78.125
  aS0=12.625 - 1.25×7.5=3.25

SxxU=4×(12 + 22) - 8×1.52=20 - 18=2
SxyU=4×(1×8.25 + 2×12.5) - 8×1.5×10.375=133 - 124.5=8.5
  φβU=1   VβU=SβU=36.125
  aU0=10.375 - 4.25×1.5=4

  
SβS1=1.205×130=156.65   SβU1=4.475×(-5)=-22.375
Sβ1=156.65 - 22.375=134.275  φβ1=2

  
SβS2=1.17286×220=258.0292   SβU2=4.31429×13=56.08577
Sβ2=258.0292 + 56.08577=314.114  φβ2=2   

SIDIF=(8×12.6252+8×10.3752-2116)+(78.125+36.125)-134.275=0.225
φIDIF=1  VIDIF=SIDIF=0.225
SBI=(4×42 + 2116) + 134.275 - 314.114=0.161   φBI=1  VBI=SBI=0.161
SR=322 - 314.5=7.5  φR=19 - 4=15   

  


CUU-2RCSU + R2CSS=0.114286 - 2×3.67844×0.0128571 + 3.678442×0.00457143=0.08155352

これらの統計量を用いて表13.3.2の勾配比検定法の分散分析表を作成し、各種の検定を行うことができます。