玄関小説とエッセイの部屋小説コーナー不思議の国のマトモな事件

白ウサギ「さあさあ、起きた、起きた! 呑気に昼寝なんかしてないで、急げ急げ!」

ミミ  「ん、んー……まだ眠いわ……、今日の講義、午後からなのよ、あたし……」

白ウサギ「起きるんだ、アリス! 急がないと公爵夫人が、公爵夫人が……!」

ミミ  「んー……え? アリス……? 公爵夫人……?」

ミミが薄目を開けると、白ウサギがチョッキのポケットから懐中時計を取り出し、イライラした表情で時間を確かめている。 驚いたミミ、パッと目を開け、キョトキョトとあたりを見回す。 そこはミミの下宿。 どういうわけか、畳の真ん中に大きなウサギ穴が空いている。

白ウサギ「さあさあ、ぼんやりしてないで急ぐんだ! 遅れたら死刑は間違いないぞ! さぁーっ!!」

と、白ウサギがミミを布団から引っ張り出そうとする。 ミミ、布団にしがみついて抵抗しながら、

ミミ  「ちょ、ちょっと待ってよ! あなた、誰? 一体、どーゆーこと、これ!?」

白ウサギ「あぁ、もう時間が……! さあアリス、さあ大急ぎ大急ぎっ!」

白ウサギは抵抗するミミを布団から引っ張り出し、ウサギ穴に向かって引きずって行く。

ミミ  「ちょ、ちょっと待ってってばァ! あたし、アリスなんかじゃないわ!」

白ウサギ「あぁ、困った! これじゃー死刑だ、死刑は間違いない! さあ急げ、アリス!」

ミミ  「アリス、アリスって、あたし、ミミよ、小山内ミミってゆーのよォ! 人違いよ、人違いだってばァーッ!!」

白ウサギに引きずられたミミ、ウサギ穴をのぞき込む。 穴は深く、真っ暗で底が見えない。

白ウサギ「さあ行こう、アリス! みんな頭にきて、カンカンになって、カンカンかぶって、カンカン踊りをやってるぞーっ!」

ミミ  「行こうって、あたしをどこ連れてく気ィ!? 誘拐にしたって、その変装はフザケてるわ。 だいち、あたし、パジャマのままなのよー。 レディーに対して失礼だと思わないのォ、全く!」

文句を言っているミミに構わず、白ウサギはミミの手を引っ張り、ウサギ穴にピョンと飛び込む。 白ウサギとミミ、ゆっくり穴に落ちながら、

白ウサギ「さあ急ごう! もう裁判が始まってるかもしれんぞ、さあーっ!」

ミミ  「裁判……!?」

怪訝な顔をしたミミと、せかせかとあせった様子の白ウサギが、スーッと穴の底に消えていって————