玄関雑学の部屋雑学コーナー遺伝子検査と診断率

2.診断率

一般に、検査の精度を評価する指標として次のようなものがあります。 (→当館の「統計学入門 9.2 群の判別と診断率」参照)

図9.2.1 診断率の模式図
RT-PCR検査では横軸はウイルス量を表す
表9.2.1 群と検査結果
 検査結果
陰性(Negative)陽性(Positive)
正常群(Normal)TN(True-Negative)FP(False-Positive)nN
疾患群(Disease)FN(False-Negative)TP(True-Positive)nD
TN+FNFP+TPn
感度(sensitivity):疾患にかかった人(ウイルスに感染した人)が陽性になる確率(結果の確率)

(1-SN):偽陰性率
特異度(specificity):正常の人(ウイルスに感染していない人)が陰性になる確率(結果の確率)

(1-SP):偽陽性率
正診率(accuracy):疾患にかかった人と正常の人を正しく診断する確率(結果の確率)
AC=πDSN + (1-πD)SP
※疾患群の割合(nD/n)がその疾患の一般的な有病率(事前確率)πDを反映している時は次式で計算可能

陽性予測値または陽性適中度(positive predictive value):検査結果が陽性の時に、本当に疾患である逆確率(原因の確率)

※疾患群の割合(nD/n)がπDを反映している時は次式で計算可能

陰性予測値または陰性適中度(negative predictive value):検査結果が陰性の時に、本当に正常である逆確率(原因の確率)

※疾患群の割合(nD/n)がπDを反映している時は次式で計算可能

これらの指標のうち、感度と特異度は感染者と非感染者に関する検査精度を表す指標であり、正診率は総合的な検査精度を表す指標です。 それに対して陽性予測値と陰性予測値は臨床現場でこの検査を用いた時の診断精度を表す指標です。 感度と陽性予測値の違いと、特異度と陰性予測値の違いは、あまり理解されていないのではないかと思います。 そして図9.2.1の模式図から、上記の診断指標の間には次のような関係があることが分かると思います。

  1. 感度と特異度の間には境界値を大きくすると感度が低くなって特異度が高くなり、境界値を小さくすると感度が高くなって特異度が低くなるというトレードオフの関係があり、両方を同時に高くはできない。
    例えば検査した人全員を「陽性」としてしまえば感度は100%になりますが、特異度は0%になります。 その反対に検査した人全員を「陰性」としてしまえば、特異度は100%になりますが感度は0%になります。
  2. 感度と特異度がほぼ同じ時、正診率が最大になる。
    感度と特異度の間にトレードオフの関係があるため、図9.2.1の模式図のように、普通は感度と特異度が同じぐらいの値になる時の境界値を最適境界値として利用します。 そしてこの時、総合的な診断精度を表す正診率がほぼ最大になります。
  3. 感度と陽性予測値は反比例し、特異度と陰性予測値も反比例する
    境界値を大きくすると感度は低くなりますが、ウイルスに感染している可能性が高い人だけが陽性になり、陽性予測値が高くなります。 その反対に境界値を小さくすると特異度は低くなりますが、ウイルスに感染していない可能性が高い人だけが陰性になり、陰性予測値が高くなります。 そして感度と特異度の関係と同様に、陽性予測値と陰性予測値の間にもトレードオフの関係があり、両方を同時に高くはできません。 この感度と陽性予測値の反比例関係と、特異度と陰性予測値の反比例関係は少々ややこしいので、誤解している人が多いと思います。

これらの関係は、国立長寿医療研究所センターの中村昭範先生が考案され、Natureに掲載された論文中で公表したDP-plotというグラフを利用するとよくわかると思います。

図9.2.3 DP-plotによるTCの境界値 図9.2.4 理論的DP-plotによるTCの境界値
SN:感度曲線  SP:特異度曲線  AC:正診率率曲線  PPV:陽性予測値曲線  NPV:陰性予測値曲線