玄関雑学の部屋雑学コーナー遺伝子検査と診断率

4.1次スクリーニング検査

検査には1次スクリーニング検査精密検査または確定診断用検査があり、それぞれ目的が異なります。 1次スクリーニング検査はウイルスに感染している可能性がある人をできるだけ見逃さずに拾い上げて、精密検査または確定診断用検査の対象にし、ウイルスに感染している可能性が非常に低い人をそれらの検査対象から除外するための検査です。 つまり1次スクリーニング検査とは疑わしきを罰する検査と言えるでしょう。

1次スクリーニング検査には、特異度は低いが感度が高いという特徴を持つ検査が適しています。 そのような検査は偽陰性が少なくて陰性予測値が高く、検査で陰性になった人はウイルスに感染していない確率が非常に高く、とりあえず安心できます。 その代わり偽陽性が多くて陽性予測値が低く、陽性になっても本当に感染している確率は低いのでパニックになる必要はありません。

1次スクリーニング検査としては健康診断用の検査が代表的です。 健康診断用の色々な検査が全て陰性になれば、非常に高い確率で病気ではありません。 でも例えば血圧がすこし高くて陽性になったからといって、すぐに高血圧症だというわけではなく、精密検査が必要(要精検)と言われると思います。 血圧は変動が大きいので、少し運動したり、緊張したりすればすぐに高くなってしまい、偽陽性になりやすいのです。 そのため健康診断用の検査で「精密検査が必要」と言われた経験のある人はけっこう多いと思います。

1次スクリーニング検査に対して精密検査または確定診断用検査は、ウイルスに感染している可能性が非常に高い人だけを入院・隔離治療の対象にし、可能性がそれほど高くない人は経過観察にしておくための検査です。 つまり精密検査または確定診断用検査とは疑わしきは罰せずの検査と言えるでしょう。

精密検査または確定診断用検査には、感度は低いが特異度が高いという特徴を持つ検査が適しています。 そのような検査は偽陽性が少なくて陽性予測値が高く、検査で陽性になった人はウイルスに感染している確率が非常に高く、入院・隔離治療という荒療治を施す妥当性が高くなります。 その代わり偽陰性が多くて陰性予測値は低く、陰性になっても本当に感染していない確率は低く、慎重な経過観察が必要です。

例えば健康診断で「精密検査が必要」と診断され、精密検査を受けた結果、医師から、

「早急に治療する必要はないので、しばらく様子を見ましょう」

と言われた経験のある人は少なくないと思います。

RT-PCR検査は感度は低いが特異度は高いという特徴を持つので、1次スクリーニング検査には適しておらず、精密検査または確定診断用検査に適しています。 ウイルス量の境界値を小さく――実際には増幅サイクル数Ctを大きく――すれば感度は高くなり、その結果として特異度は低くなります。 しかし検体採取に技術が必要であり、ウイルスをうまく採取できなければいくらウイルス量の境界値を小さくしても陽性にはなりません。 そのため感度を高くすることに限界があるので、1次スクリーニング検査には適していないのです。

その代わりウイルス量の境界値を高くすれば、感度は低くなりますが、特異度をかなり高くすることができます。 そのため精密検査または確定診断用検査に適していて、COVID-19でも確定診断用検査として利用されています。 ただしこの検査で陰性になっても本当に感染していない確率は低いので、慎重な経過観察が必要です。

またCOVID-19用のRT-PCR検査は開発されたばかりなので、まだ本来の確定診断用検査よりも信頼性が低い状態です。 そのため医師はRT-PCR検査だけでなくレントゲン検査やCT検査なども実施し、さらに患者の臨床症状や履歴なども含めて総合的に検討し、本当にCOVID-19かどうかを診断しています。 一般的な疾患でもそのように総合的に検討して診断するのが普通であり、たった1つの検査だけで診断するようなことはしません

COVID-19の場合、1次スクリーニング検査に相当するのは医療従事者による問診です。 これは、これまでに判明しているCOVID-19情報に基づいて例えば次のような問診を行い、医療従事者が「陽性」と「陰性」を診断して確定診断用検査つまりRT-PRC検査を行うかどうかを判断します。

これらの問診による1次スクリーニング検査の感度は非常に高いので、この検査で「陰性」になる、つまり上記の問診の全てに該当しなければ感染していない確率は非常に高くなります。

巷では、

「何故もっと検査をしないんだ!」

という批評を見かけます。 でも医療従事者による1次スクリーニング検査は、どこの医療機関でも、原則として全ての希望者を対象にして実施しているはずです。 ところが医療従事者による問診が実は1次スクリーニング検査であると思っていない人が多い上に、この検査はRT-PCR検査よりも感度が高く、この検査で陰性になればRT-PCR検査で陰性になった時よりも感染していない確率がかなり高いということを知らない人が多いので、上記のような批評が出るのでしょう。

またこの問診による1次スクリーニング検査は、自分でもある程度は実施できます。 そのためCOVID-19だけでなく色々な感染症の人がいて、普通の場所よりも2次感染する危険性が高い医療機関をわざわざ受診せず、まずは自己問診して「陽性」の可能性が高いと思ったら、はじめて医療機関を受診することをお勧めします。 自己問診の内容は、上記以外にも医療従事者の方がメディアやインターネットを通じて色々と公表されているので、それを参考にすれば良いと思います。

1次スクリーニング検査とRT-PCR検査の特徴を表すために、感度90%、特異度50%の1次スクリーニング検査と、感度50%、特異度90%のRT-PCR検査について、事前確率を0〜1と変化させた時の陽性予測値と陰性予測値の変化をPN-plotで描いてみました。

1次スクリーニング検査のPN-plot RT-PCR検査のPN-plot
PPV:陽性予測値曲線  NPV:陰性予測値曲線

例えば事前確率が0.5の時、1次スクリーニング検査は陽性予測値が65%程度で、陰性予測値が83%程度になります。 それに対してRT-PCR検査は、その反対に陽性予測値が83%程度で、陰性予測値が65%程度になります。 また事前確率が0.1の時、1次スクリーニング検査は陽性予測値が15%程度で、陰性予測値が97%程度になります。 それに対してRT-PCR検査は陽性予測値が35%程度で、陰性予測値が95%程度になります。

そして事前確率が0.01以下の時、どちらの検査も陽性予測値がほぼ0%で、陰性予測値がほぼ100%になり、検査をしてもしなくてもウイルス感染の確率は1%以下になります。 ウイルス感染の確率が1%以下ということは事前確率と同じ程度の低い確率ということです。 したがってウイルス感染の事前確率が1%以下の集団については、どちらの検査も行う意義がないわけです。

また事前確率が0〜1の範囲全体では、1次スクリーニング検査は陽性予測値よりも陰性予測値の方が高い領域が多く、RT-PCR検査は陰性予測値よりも陽性予測値の方が高い領域が多くなっています。 このことから1次スクリーニング検査は陰性予測値を優先したウイルス非感染者を安心させるための検査であり、RT-PCR検査は陽性予測値を優先した確定診断用の検査であることがわかると思います。