玄関マンガと映画の部屋作品紹介コーナー思い出の虫干し

○昭和50年代後半(1980年代前半)

昭和50年代後半つまり1980年代前半になりますと、マンガは爛熟期に入ります。 子供マンガと大人マンガの区別だけでなく、男性マンガと女性マンガの区別も曖昧となり始め、あらゆるタブーはなくなり、芸術的・哲学的なものからエログロ・ナンセンスまで、様々なジャンルのマンガが氾濫するようになります。 また同人誌やコミケット活動も盛んになり、マンガ家予備軍やマンガ評論家などマンガに関連した世界も急速に広がっていきました。

この時期で特に目についたことと言えば、男性マンガ家の描く少女の線が少女マンガの線に近づき、女性マンガ家の描く少年の線が少年マンガの線に近づいてきたことです。 そして作品的には、男性マンガにも女性マンガにもラブコメディ物が増えてきました。

僕はようやく仕事に慣れてきて多少余裕が出てきたものの、マンガ家を夢見ていた学生時代のように、全ての分野のマンガをフォローするような熱意は薄れ、またマンガ世界の拡大により、そんなことは不可能にもなっていました。 マンガに対して少し距離を置き、どちらかと言えばマイナーな分野に掘り出し物を見つけて喜ぶ、いやらしい好事家のような楽しみ方をするようになったのです。(^^;)


この頃の作品はさすがにバライティに富んでいて、連載を開始して、すぐに絵のセンスの良さに惚れ込んでしまい、アニメ化されブームを巻き起こしてからは少し離れてしまったSFギャグマンガ、鳥山明の「Dr.スランプ」、最初は単純なスーパーヒーロー物のパロディだったのに、人気が出るにしたがってアクションギャグに変貌していった、ゆでたまごの「キン肉マン」、 独特のタッチで、ナイーブで詩的な独自の世界を創り上げた、内田善美の「草迷宮・草空間」や「星の時計のLiddell」、妖しく艶っぽくコワイ線で、聖徳太子のイメージをすっかり変えてしまった美青年歴史マンガ、山岸涼子の「日出処の天子」、本来はシリアス物の作家なので、ギクシャクしたギャグを連発し、それがかえって人気を呼んだ少女コメディマンガ、亜月裕の「伊賀のカバ丸」、 初の女流SFプロパーマンガ家と思われるこの作者の、SFマインドあふれる雄大なSFマンガ、佐藤史生の「夢みる惑星」、同じくサイバーパンクとサイキックを融合したマニアックなSFマンガ、佐藤史生の「ワン・ゼロ」、ますます端正でシャープな絵になっていき、絵をみるたびにため息の出るSFマンガ、星野之宣の「妖女伝説」と「2001夜物語」、そしてすごくお気に入りのSF短編集、星野之宣の「残像」、 女の子はあまり好きな絵じゃなかったけど、ちょっぴりきわどいシーンが良かったラブコメマンガ、村生ミオの「胸さわぎの放課後」、これも女の子は好みの絵じゃなかったけど、こんな彼女がいたらいーなぁとうらやましかったラブコメマンガ、三浦みつるの「The かぼちゃワイン」、ちょっとカッコ良すぎてついていけないとこもあったものの、さわやかさが良かった青春マンガ、楠木みちはるの「あいつとララバイ」、 ほとんど少女マンガのような甘さの中に、繊細な詩情も感じさせてくれたラブコメマンガ、あだち充の「みゆき」と「タッチ」、吸血鬼というテーマに惹かれて読んだオトメチックファンタジー、池野恋の「ときめきトゥナイト」、やっぱりラブコメは女流作家の方がうまいなぁと納得した、高橋留美子の「めぞん一刻」、本質的には短編作家だと思うこの作家の代表的な短編集、高橋留美子の「るーみっくわーるど」、 ゴルフブームに乗って登場した、この作者お得意の八方破れスポ根ゴルフマンガ、ちばてつやの「あした天気になあれ」、とにかく抜群に完成された絵に驚いてしまったアクションマンガ、北条司の「キャッツ・アイ」、それまではわりと真面目な作品が多かったけど、型破りな主人公を登場させて成功したアクション野球マンガ、大島やすいちの「バツ&テリー」、僕の好きなランプがいい味を出している、久々に読みごたえのある重厚な歴史マンガ、手塚治虫の「アドルフに告ぐ」、 バイクのことは知らないくせに、孤独な陰のある主人公とヒロインの少女が気に入ったバイクレースマンガ、しげの秀一の「バリバリ伝説」、のんびりとした作者の性格を反映して、ゆっくりしたテンポのほんわかラブコメマンガ、高見まこの「いとしのエリー」、ヒーロー物のパロディで始まり、美少女がどんどん可愛くなっていって嬉しくなったSFアクションコメディ、桂正和の「ウイングマン」、 はっきり言って感覚的にはだんだんついていけなくなっていたものの、作品から感じられる熱気だけに惹きつけられて読んでいた暴走族マンガ、吉田聡の「湘南爆走族」、同じように主人公達のキャラクターと熱気に惹きつけられて読んでいた、きうちかずひろの「BE−BOP−HEIGHSCHOOL」、手塚治虫の「ブラック・ジャック」に影響された作品で、主人公のイメージまで似ている料理マンガ、剣名舞原作・加藤唯史絵の「ザ・シェフ」、 脳天気なサラリーマンの徹底した釣りバカぶりを描いたほのぼの釣りマンガ、やまさき十三原作・北見けんいち絵の「釣りバカ日誌」、この頃にはもう古臭くなってしまったテーマに真正直に取り組んで、かえって好感がもてたスポ根剣道マンガ、村上もとかの「六三四の剣」、突き刺さるような鋭いタッチと、少女マンガとは思えないような激しい内容に驚かされた青春マンガ、吉田秋生の「河よりも長くゆるやかに」、それに加えて妖しい雰囲気まで漂わせたサイキック風少女マンガ、吉田秋生の「吉祥天女」、 少女チックな絵と下ネタのアンバランスさが何とも言えずに面白いラブコメマンガ、小林じんこの「風呂上りの夜空に」、今や”フーミン”の愛称で親しまれる作者の、みずみずしい感覚の短編青春マンガ、柴門ふみの「さみしい同盟」や「11月でも花火」など一連の作品、女性の性格描写に優れた作者の出世作、柴門ふみの「p.s.元気です、俊平」、バイタリティあふれる女性の本音を生き生きと描いた女性マンガ、柴門ふみの「女ともだち」、 作者が大きく飛躍するきっかけとなったSFアクションマンガ、矢作俊彦原作・大友克洋絵の「気分はもう戦争」、絵といいストーリーといい、この時期に一番衝撃を受けたSFマンガの傑作、大友克洋の「童夢」、SFの名作「虎よ、虎よ!」に影響を受けたと思われるSFアクションマンガ、大友克洋の「AKIRA(アキラ)」、好きだなぁこーゆーマンガ、何の取り柄もない主人公が、一途になってしつこく必死に頑張る柔道マンガ、こせきこうじの「ああ一郎」、 結婚した女性も結婚前の女性も、結婚した男性も結婚前の男性もみんな読みましょうね、この主婦マンガ、ささやななえの「おかめはちもく」、抜群のポップアート的センスと、めちゃんこ可愛い美少女が出てきて快調だったのに、白いワニのせいで途中で中止してしまったギャグマンガ、江口寿史の「ストップ!!ひばりくん!」、女流作家には珍しく、骨太なストーリーとはっきりした主張を持ち、ファンシーな風味を加えた好短編シリーズ、石坂啓の「安穏族」、 シリアスな絵でヒーロー物の馬鹿げたパロディをやり、ヒロイン(?)のバラダキが気に入ってしまったSFアクションコメディ、安永航一郎の「県立地球防衛軍」、どこか寺山修司の舞台を思わせる大正ロマン的怪奇ファンタジーマンガ、高橋葉介の「夢幻紳士」、おそらくこの作者のライフワークになると思われる、傑作大河歴史ギャグマンガ、みなもと太郎の「風雲児たち」、 この人のセンスには本当に感心してしまったなぁ、何と表現して良いのかわからないほどの不思議なアンソロジー、高野文子の「絶対安全剃刀(特に「ふとん」と「田辺のつる」は絶品!)」、久々に元気なところを見せてくれて、多いに笑いまくったOLギャグマンガ、土田よしこの「待ったなし!!よしこはOL」、作者自身のルーツをたどりながら、幕末の青春群像を描いた歴史マンガ、手塚治虫の「陽だまりの樹」……う〜ん、ちょっとマイナーなものが増えてきたかなぁ…?(^^;)