玄関小説とエッセイの部屋小説コーナー僕達の青春ドラマ

【第6章 息抜き】

次の日の朝、僕は誰にも起こされないのに、8時にはもう起きていた。 浮世絵の謎をあれこれと考えながら眠りについたせいか、大量の浮世絵を無理矢理食べさせられるという悪夢にうなされて、目が覚めてしまったんだ。 今日は朝9時頃にまた警察がやって来るから、朝食が欲しい人はそれまでに食事を済ませるように言われていたので、さっそく服を着て隣の部屋の伴ちゃんを起こしに行った。

伴ちゃんの部屋に入ってみて驚いたことに、何と彼はもうすでに起きたらしく、部屋にはいなかった。 普段は僕に輪をかけて寝坊助な彼が、こんな時間にもう起きていて、しかも僕に何も言わずにどこかへ行ってしまうなんてことは、とても尋常とは思えない。 一体どうしたことかとぼんやりしていると、ノックの音がして、ミミちゃんがいそいそと入って来た。

「おっはよーっ! ……あら、なんだ、友規君だったの?」

ミミちゃん、伴ちゃんが見あたらないせいか、がっかりした様子で、

「……伴ちゃんは?」

と、部屋中をキョロキョロ見回している。

「おはよ。 悪かったね、僕しかいなくて……」

そんな彼女の態度に、僕はちょっとふてくされたような顔を作って、

「伴ちゃん、もう起きてったらしーよ。 ひょっとしたら、夕べ伴ちゃんが言ってた『思いつき』ってやつを聞き出すために、ミミちゃんが、こっそりどっかに連れ出したんじゃないかと思ってたんだけどね」
「実は、そーしよーかなって思って、伴ちゃん、起こしにきたのよねー」
「おーおー、ヌケヌケと……」
「でも、ほんとにもー起きてったの? 伴ちゃんがァ?」

僕等の下宿生活の実態を知っている彼女は、どっか悪いんじゃないかしらってな顔になった。

「確かにおかしいよね、伴ちゃんがこんなに朝早く起きるなんて」
「やっぱ、伴ちゃんの『思いつき』って、けっこう重要なことなんじゃ……」

とミミちゃんが言いかけた時、今度は雪子さんが入って来た。

「あら、友規君、ここだったの。 おはようございます、今日はずいぶん早いんですね」
「おはよーございます。 僕だってたまにゃー早起きしますよ、エッヘン!」

と雪子さんに胸を張ってみせると、隣のミミちゃんがあっさりと、

「いばるほどの時間じゃないわ、もー8時よ」それから雪子さんを振り向き、「雪ちゃん、伴ちゃん知らない?」
「伴ちゃんなら、さっきホールで、秀昭さんと何か相談してたわよ」
「やっぱし! ひっどいなー、伴ちゃんったら水臭いわよねー」
「そう言えば、伴ちゃん、朝食が済んだら、ミミちゃんと友規君に何か話があるようなことを言ってたわね」
「えっ、ほんと? じゃ、早くホール行かなくっちゃ!」

現金なもんで、ミミちゃん、とたんに元気になってさっさと部屋から出て行ってしまった。 部屋に残された僕と雪子さんが顔を見合せて苦笑いしていると、廊下からミミちゃんの大声が飛んできた。

「ほらーッ、友規くーん! グズグズしてると、朝メシ抜きよーッ!」