玄関小説とエッセイの部屋小説コーナー僕達の青春ドラマ

【第4章 中詰め】

「ええーっ!! フルコースにダンスパーティー……!?」

何と夕食は洋食のフルコースで、そして恐ろしいことに、その後でささやかながらダンスパーティーをするというんだ!

僕と伴ちゃんは驚いたなんてもんじゃない、まさに天変地異にあったような大恐慌をきたしてしまった。 フルコースやダンスパーティーなんてシロモノは、僕はテレビや小説でその存在をかろうじて知ってるだけで、本物なんてもちろんお目にかかったこともないし、 伴ちゃんにいたってはその存在すらほとんど知らなくて、みんなに説明されて、やっとどういうものだか──理解するってとこまではいかないけど──知ったような状態だった。

「で、でも、テーブルマナーのテの字も知らないよ、僕等」
「大丈夫、大丈夫、あたしと雪ちゃんの真似してれば、何とかなるわよ」
「それに、わからなければ、白石さんや大野さんに遠慮なく尋ねればいいんですよ。 あの人達、いつもそばにいてくれますから」

ミミちゃんや雪子さんは事も無げだった。 そりゃあ彼女達は慣れてるからいいだろうけど、こっちの身にもなって欲しいもんだ。

「で、でも、変なこと聞いたら、やっぱり恥だし……」
「別に、恥でもなんでもないわよ。 誰だって、最初は何にも知らないんだから」
「そりゃそーだけど、他のみんな、そーゆーのよく知ってそうだし……」
「知ったかぶりして、エラソーなことゆー人に限って、たいして知っちゃいないのよ、ほんとは。 そーゆーのが一番恥なのよねー」

ミミちゃんと雪子さんに説得されて、僕等はしぶしぶ覚悟を決めた。 でも、ダンスパーティーの方はまだ問題があった。 僕と伴ちゃんは今着てる服と水着しか持ってこなかったし、いくら世間知らずの僕だって、こんな格好でパーティーに出られるもんじゃないってことぐらいは、かろうじて見当がついていたんだ。

ところがミミちゃんは、おそらく雪子さんから聞いていたんだろう、こんな事態を予想していたらしく、僕等のためにちゃんとコスチュームを用意してくれていたんだ。 女優時代の知り合いから借りてきたという話で、伴ちゃんのコスチュームは黒いタキシードと黒い蝶ネクタイ、僕のコスチュームはベージュのスーツと赤いネクタイだった。 もちろんそんなものを着たこともない僕等だから、二人ともミミちゃんと雪子さんに手伝ってもらって、どうにかこうにか着ることだけはできたけど、僕なんかまるで場末のキャバレーの三流歌手ってな格好だし、伴ちゃんときたら育ち過ぎの七五三ってな格好で、どっちも見られたもんじゃない。

それにひきかえミミちゃんと雪子さんは、さすがにパーティーなんぞ慣れたもんらしく、二人ともこれ見よがしの派手な格好じゃないのに、思わず見とれてしまうほどの素晴らしさなんだ。 ミミちゃんは、主役である雪子さんを引き立たせるためだろうか、少しじみでこざっぱりした感じの白いドレス、雪子さんは、青を基調としてところどころ赤をあしらった、いかにも彼女らしい落ち着いた感じのドレスだった。

準備が終わって、それぞれのお相手と一緒に姿見の前に並んだ時、二組のカップルの服装が見事にマッチしているのに気がついて驚いてしまった。 キュートなミミちゃんの隣に並ぶと、彼女の後光に照らされるためか、七五三のような伴ちゃんの姿が少年のような輝きを帯びて見えるし、僕も雪子さんの美しさを邪魔しない程度には何とか格好がとれている。 鏡を眺めているミミちゃんの顔に会心の笑みが浮かんでいるのを見ても、この時のために彼女がみんなのコスチュームをあれこれと研究していたことが想像され、今回のことに対する彼女の熱意をうかがい知ることができた。

「さあ、それじゃー、そろそろ行こーか!」と威勢良く言うと、ミミちゃんは僕を振り向き、「覚悟はいい、友規君?」
「いざ出陣だって気分だよ、実際」
「その意気、その意気! 伴ちゃんはどう?」

と、今度は伴ちゃんに視線を移した。

「何だかよくわかんないけど、何か食べれるんなら、それでいいよ、僕……」