玄関雑学の部屋雑学コーナー統計学入門

14.3 各種のコンパートメントモデル

ここで代表的なコンパートメントモデルをまとめておきましょう。 これらは全て第1節で説明した薬物の移行速度に関する2つの仮定から数学的に導くことができます。 興味のある方は、是非、自分で導いてみてください。 実際にやってみると意外と面白い作業である——もちろん、うまく導ければ…ですが(^^;)——ことがわかると思います。

○基本的な記号の意味
C:コンパートメント(主として血液区画)の濃度  C(t):時間−濃度関数
C0:初期濃度  q0:薬物の投与量   f:吸収効率または吸収率(0〜1)
tif:持続注入時間  tr:持続放出時間   t0:ラグタイム(lag time、溶解時間等)
Vd:見かけの分布容積(実際の区画容積の1.5〜2倍)   Vc:血液区画の分布容積
k0:持続注入速度または持続放出速度(0次速度過程)
ka:吸収速度定数(1次速度過程)   ke:排出速度定数(1次速度過程)
k12:第1区画から第2区画への分布速度定数(1次速度過程)
k21:第2区画から第1区画への分布速度定数(1次速度過程)
AUC:曲線下面積  t1/2:半減期  tmax:最高血中濃度時間   Cmax:最高血中濃度、Cmax = C(tmax)
ClT:全クリアランス

(1) 静注1コンパートメントモデル

用量q0を急速静注し、瞬時に血液区画に一様分布して徐々に体外に排出されるモデル。 (注1)

表14.3.1 急速静注後の血中濃度データ
時間(hr)0.250.5 1246
血中濃度 52.532.5 16.77.31.70.3
図14.1.2 静注1コンパートメントモデルの模式図
図14.1.3 静注1コンパートメントモデル関数(実数単位) 図14.1.4 静注1コンパートメントモデル関数(対数単位)

q0 = 100  ke = α = 1.48187   C0 = A = 73.623
     
tmax = 0  Cmax = C0 = A = 73.7623   ClT = ke Vd = 2.00899

(注1) 静注1コンパートメントモデルの微分方程式は次のようになります。

表14.3.1のデータを対数変換して、対数血中濃度−時間関数を直線回帰すると次のようになります。

ln{Cc(t)} = ln(C0) - ket
C0 = 48.9789  ke = 0.856461 ← 図14.1.4の青色の直線の定数と傾き

これらの値を初期値としてガウス・ニュートン法でパラメーターを求めると、20回以上の反復計算の結果、次のような値に収束します。 ガウス・ニュートン法ではパラメーターの標準誤差も近似的に求めることができるので推定値の信頼性を評価することができます。

推定値:C0 = 73.7623  ke = 1.48187 ← 図14.1.4の黒色の直線の定数と傾き
標準誤差:SEC0 = 5.56865  SEke = 0.170237