玄関雑学の部屋雑学コーナー統計学入門

14.4 反復投与

(1) 反復投与のシミュレーション

コンパートメントモデルを利用すると、薬物の単回投与実験の結果から、その薬物を反復投与した時の体内動態をシミュレートすることができます。 例えばt1(=0)時間に用量q1を静注または内服で投与し、…、tj時間後に用量qjを投与し、…、tp時間後に用量qpを投与したとします。 この時の血中濃度の変化つまり血中濃度関数Cc(t)は、単回投与のコンパートメントモデルによる血中濃度関数をCc(t,qj)とすると次のようになります。

(j=1,…,j,…,p t≦tjの時はCc(t,qj)=0とする)
図14.4.1 静注反復投与モデル 図14.4.2 内服反復投与モデル

時間間隔hで用量q0を反復投与して定常状態になった時、第j回目の投与において投与時間をt=0とすると、この時の血中濃度関数は次のようになります。

○静注1コンパートメントモデル
 
 Tmax = 0  
 Cmin = Cmax exp(-ke h) … 最小血中濃度    … 平均血中濃度
○内服1コンパートメントモデル
  (α>β)
  (ka>ke)
 ka = α  ke = β
    Cmax = Cc(Tmax)
    
○全てのモデルに共通して
 AUCj(第j回目の投与のAUC) = AUC(∞)(単回投与のAUC)

反復投与モデルを長い目で見れば、持続注入速度をk0=q0/hとした持続注入モデルとみなすことができます。 そのため平均血中濃度の変化は持続注入モデルと同一になり、ほぼ定常状態に達するまでの時間は投与量や投与間隔とは無関係に速度定数だけで決まります。 例えば静注1コンパートメントモデルでは、(3) 静注1コンパートメント持続注入モデルと同様に次のようになります。

CSS - C(t*) = A - A{1-exp(-αt*)} = A exp(-αt*)=A ε
∴-ke t* = ln(ε)   
○ε=0.01つまりC(t*)がCSSの99%の時をほぼ定常状態とした時
… 半減期の約7倍弱
○ε=0.05つまりC(t*)がCSSの95%の時をほぼ定常状態とした時
… 半減期の約4倍強

くどいようですが、近代科学の特徴は数学という科学言語を使って仮説演繹法を厳密に実施する点にあります。 コンパートメントモデルの本来の目的も、簡単な仮定から実際のデータをうまく説明すると同時に、基本的な実験結果から推測されたモデルとパラメーターを用いて条件を色々と変えた時の結果を事前に予測し、必要に応じてシミュレートすることにあります。

具体的に言えば、単回投与実験のデータに基づいて最適なコンパートメントモデルとパラメーターを推測し、それを用いて反復投与した時の体内動態をシミュレートします。 そして最小濃度Cminを有効濃度以上に、かつ最大濃度Cmaxを危険濃度未満にし、平均濃度Cmeanを最適濃度付近にするためにはどのような用法用量が適しているか、といったことを検討するわけです。 単なる実験結果の現象論的な羅列だけで終始しやすい薬学を現代的な学問に変換する意味で、これは大きな進歩と言えるでしょう。