玄関雑学の部屋雑学コーナーベクトルと行列

5.ベクトル空間の基底と部分空間

1) ベクトルの1次結合

図3基本ベクトルによる表現

さて、虹の彼方からまたベクトル空間の世界に戻りましょう。 ベクトル空間上の任意のベクトルは、基本ベクトル1、…、i、…、nを用いて次のように表すことができます。









x1


xi


xn








=x1





1

0

0






+ … +xi





0

1

0






+ … +xn





0

0

1






 =x11+ … +xii+ … +xnnn
Σ
i=1
xii     …… (5.1)

またiの内積は、

'i=(, i)=‖‖‖i‖cosθ=‖‖cosθ=xi

iに正射影した影の長さになり、これはの第i成分そのものとなります。 つまり、基本ベクトルはベクトル空間の座標軸に相当するベクトルなのです。

ベクトルにスカラーの係数を掛けて、それを複数個合計することをベクトルの「1次結合(linear combination)」または「線形結合」といいます。 あるベクトルが他のベクトルの1次結合として、

=a11+ … +aii+ … +ann n
Σ
i=1
aii     …… (5.2)

ただしaiのうちどれか1つ以上は0ではない

と表される時、この関係を「1次従属(linear dependent)」または「線形従属」と呼び、他のベクトルの1次結合として表されない時には「1次独立(linear independent)」または「線形独立」と呼びます。 基本ベクトルはお互いに他の基本ベクトルの1次結合として表すことはできませんので、1次独立の関係にあり、基本ベクトル以外のベクトルは基本ベクトルの1次結合として表すことができますので、基本ベクトルと1次従属の関係にあります。 これは、ベクトル空間上では基本ベクトルによって表される直交座標上にあらゆるベクトルがプロットできることと対応しています。

2) ベクトル空間の基底

ベクトル空間にはお互いに1次独立で、かつ他のベクトルをそれらの1次結合として表すことができるようなベクトルの組が基本ベクトル以外にも存在し、それらのベクトルもベクトル空間の座標軸に相当します。 これは、ベクトル空間には基本ベクトルに対応する基本的な直交座標軸以外にも、それを回転した回転座標軸とか、斜めに歪めた斜交座標軸とかいった色々な座標軸を設定することが可能なことに対応しています。

そのようなベクトルの組を「基底(basis)」といい、お互いに直交するものを「直交基底(orthogonal basis)」、直交し大きさが1のもの、つまり単位ベクトルのものを「正規直交基底(orthonormal basis)」または「直交正規基底」と呼びます。 正規直交基底の代表的なものが基本ベクトルであり、直交基底は直交座標軸に対応します。

例えば基本ベクトル12に対応する直交座標軸と、それを45度回転した直交基底12に対応する直交座標軸は図4のようになります。

図4直交座標軸
1


1
0



 2


0
1



 1


1
1



 2


-1
1



12については、

1'2=(1, 2)=-1+1=0
1‖=‖2‖=√(1+1)=√2

となり、直交基底ではあるものの正規直交基底ではありません。 これを正規直交基底にするためには、

1
────
1
1
──
√2




1/√2

1/√2








cos45°

sin45°




2
────
2
2
──
√2




-1/√2

1/√2








-cos45°

sin45°




と、各ベクトルをその大きさである√2で割る必要があります。 これは図4のように12によって表される直交座標軸と、原点を中心とした半径1の円との交点のベクトルになります。

また基底12、…、nが直交しない場合でも、次のような方法で正規直交基底に変換することができます。 これを「グラム−シュミット(Gram−Schmidt)の直交化法(orthonormalization)」といいます。 これは、ベクトル空間には必ず直交座標軸を設定することができることに対応しています。

1 1
────
1
2
2−(2'1)1
───────────
2−(2'1)1
 
 :
n
n−(n'1)1−…−(n'n-1)n-1
──────────────────────
n−(n'1)1−…−(n'n-1)n-1
 
<例>
図1のベクトル12として、
1


1
2



  2


3
1



1 1
────
1
1
——
√5



1
2



2−(2'1)1


3
1



5
——
√5
1
——
√5



1
2






2
-1



2
2−(2'1)1
───────────
2−(2'1)1
 
1
——
√5



2
-1



1‖=1  ‖2‖=1  1'2=0

3) ベクトル空間の次元と部分空間

n次元ベクトル空間の基底はn個のベクトルが1組となりますが、逆にあるベクトル空間において1組の基底に含まれるベクトルの個数、つまり座標軸の本数を「次元(dimension)」または「階数(rank)」といい、

dim{Rn}=rank{Rn}=n  Rn:n次元ベクトル空間  …… (5.3)

と書きます。 これらn個の基底ベクトルからその一部を選ぶと、それらを基底とする次元の少ない空間が考えられます。 この空間を「(線形)部分空間(linear sub-space)」といい、例えば3次元空間における2次元の平面がこれに相当します。

同じベクトル空間に属する2つの部分空間RAとRBがあった時、次のような空間が定義されます。

積空間:RA∩RB (RAとRBの共通部分)
和空間:RA∪RB または RA+RB (RAとRB全体)

例えば3次元空間に2枚の交わる平面があったとしますと、それらの交線が積空間(product space)となり、それらの全体つまり3次元空間全体が和空間(sum space)となります。

積空間がゼロベクトルだけの場合、2つの部分空間は独立であるといい、

dim{RA∪RB}=dim{RA}+dim{RB}
図5積空間と和空間 図6和空間と和空間の例

となります。 この時の和空間を「RAとRBの直和(direct sum)」と呼び、「RA○RB(実際には○の中に+が入ったマルジュウ記号を用いますが、ここでは活字がないので○で代用します)」と書きます。 これには例えば2本の交わる直線が相当し、交点がゼロベクトルであり、2本の直線によってできる平面が直和となります。

また任意の部分空間RAに対して、その中にある全てのベクトルと直交するベクトル全体によって作られる部分空間を「直交補空間(ortho-complement space)」または「直補空間」といい、「RA┴」と書きます。 RAとRA┴は、

n =RA○RA┴  dim{Rn}=dim{RA}+dim{RA┴}=n  …… (5.4)

という関係があり、例えば3次元空間における直線とそれに直交する平面がこれに相当します。 直交補空間は統計学分野でしばしば利用する重要な概念です。

図7直和 図8直交補空間