玄関雑学の部屋雑学コーナーベクトルと行列

13.リーマン空間

1) 一般座標変換

線形変換をもっと一般化した一般座標変換では、ベクトルをベクトルに変換する式を行列で表すことはできず、一般の関数形式でしか表せなくなります。







y1

yj

ym












φ1()

φj()

φm()






=φ()   … (13.1)

φ:n次元ベクトルをm次元ベクトルに変換する関数

このような一般座標変換は、基本的な直交座標上のベクトルを一般的な座標系から見たベクトルに変換します。

図26 関数の微小変化

一般的な座標系では座標軸が直交しているとは限らず、しかも空間も平らとは限りません。 座標軸が直交せず空間が歪んでいる座標系とは、例えばゴムでできた平らな板の上に方眼紙のように格子模様を書き、それを手でグッと歪めたようなものを想像してください。 この時、座標上の位置によって格子の角度も大きさも変化します。 この歪んだ座標系から元の直交座標上のベクトルを見ますと、座標系の歪みに合わせて大きさも方向も歪んだベクトルに見えます。 これが一般座標変換です。

一般関数y=f(x)のx=xにおける非常に微小な変化をΔxとすると、それに対応するyの微小変化Δyは、その部分の関数を近似的に直線と考え、xにおける接線の傾き、つまり微分係数df/dxを用いて、

Δy≒ df

dx
・Δx= dy

dx
・Δx

と近似できます。 これと同様にして一般座標系でも、非常に微小な領域なら近似的に平らな平面座標系として扱うことができます。 基本的な直交座標系で、ベクトルの微小な変化をΔとすると、それに対応する一般座標系でのベクトルの微小な変化Δは、その領域を平らな平面座標で近似してしまい、その部分に接する接平面の基底を用いて次のように線形変換することができます。

jφj()= ∂φj
——






∂φj/∂x1

∂φj/∂xi

∂φj/∂xn












∂yj/∂x1

∂yj/∂xi

∂yj/∂xn






  :ナブラ(ハミルトン演算子)
'=





1'

j'

m'












∂y1/∂x1

∂yj/∂x1

∂ym/∂x1
… ∂y1/∂xi

… ∂yj/∂xi

… ∂ym/∂xi
∂y1/∂xn

∂yj/∂xn

∂ym/∂xn






Δ

  =





(∂y1/∂x1)・Δx1+ … +(∂y1/∂xi)・Δxi+ … +(∂y1/∂xn)・Δxn

(∂yj/∂x1)・Δx1+ … +(∂yj/∂xi)・Δxi+ … +(∂yj/∂xn)・Δxn

(∂ym/∂x1)・Δx1+ … +(∂ym/∂xi)・Δxi+ … +(∂ym/∂xn)・Δxn






  … (13.2)

一般座標変換によって構成された空間は、線形なベクトル空間ではなく曲がった空間になります。 それはピタゴラスの定理が成り立たない、非ユークリッド幾何学の世界に対応します。

2) リーマン空間

非ユークリッド空間において、空間に沿った微小な距離Δsの平方が、

(Δs)2 n
Σ
i=1
n
Σ
j=1
gij・Δxi・Δxj=Δ'Δ
   =[Δx1 … Δxi … Δxn





g11

gi1

gn1
… g1i

… gii

… gni
g1n

gin

gnn












Δx1

Δxi

Δxn






  … (13.3)

ただしgij=gji、gij=fij()

という2次形式(quadratic form、変数の2次の項から構成される式)で与えられ、しかもその係数行列の成分gijが座標の関数fij()として与えられている時、このような空間を「リーマン空間(Riemann space)」といいます。 Δsは「線素」とも呼ばれ、線素を求めることを「空間の計量」、その時の係数行列を「計量行列」といいます。 平らなユークリッド空間では、

(Δs)2 n
Σ
i=1
n
Σ
j=1
(Δxi)2=Δ'Δ=Δ'nΔ
   =[Δx1 … Δxi … Δxn





1

0

0
… 0 …

… 1 …

… 0 …
0

0

1












Δx1

Δxi

Δxn






と、計量行列は単位行列nになります。 リーマン空間においても、微小領域では近似的に平らなユークリッド空間と考えることができますから、微小距離Δsは一般座標変換の前後で不変な値となります。

基本的な直交座標系における微小距離Δsを、

(Δs)2=Δ'xΔ=Δ'nΔ

とし、これを一般座標変換したものを、

(Δs)2=Δ'yΔ

とします。 微小領域において、ΔをΔに変換する線形変換行列をとしますと、

(Δs)2=Δ'yΔ=[Δ]'yΔ]=Δ''yΔ
   =Δ'xΔ=Δ'nΔ
'yxn
y=[']-1x-1=[']-1-1=[ZZ']-1  … (13.4)

が正規直交行列ではない場合つまりアフィン変換行列の場合、yは単位行列にはなりません。 例えば前節でアフィン変換の例として説明した、一方の座標軸がθだけ回転した斜交変換の場合は次のようになります。 (説明の都合上、変換行列と逆変換行列の表記が前章までと反対になっていますので注意!)




y1
y2






1/cosθ
-sinθ/cosθ
0
1






x1
x2



-1


cosθ
sinθ
0
1



y=[']-1-1


1
sinθ
sinθ
1



(Δs)2=Δ'yΔ =[Δy1 Δy2


1
sinθ
sinθ
1






Δy1
Δy2



   =Δy12+Δy22+2Δy1Δy2・sinθ=Δy12+Δy22−2Δy1Δy2・cos(π/2+θ)
   …余弦定理に相当

はΔをΔに変換する行列ですから、その逆行列-1はΔをΔに逆変換する行列になります。 したがって一般座標変換における微小領域の近似線形変換では、yは次のようになります。

i-1xi()= ∂xi
——






∂xi/∂y1

∂xi/∂yi

∂xi/∂yn






-1





1'-1

i'-1

n'-1












∂x1/∂y1

∂xi/∂y1

∂xn/∂y1
… ∂x1/∂yi

… ∂xi/∂yi

… ∂xn/∂yi
∂x1/∂yn

∂xi/∂yn

∂xn/∂yn






y=[1-1i-1n-1





1'-1

i'-1

n'-1












Σ(∂xk/∂y1)2

Σ(∂xk/∂yi)(∂xk/∂y1)

Σ(∂xk/∂yn)(∂xk/∂y1)
…Σ(∂xk/∂y1)(∂xk/∂yi)…

…  Σ(∂xk/∂yi)2  …

…Σ(∂xk/∂yn)(∂xk/∂yi)…
Σ(∂xk/∂y1)(∂xk/∂yn)

Σ(∂xk/∂yi)(∂xk/∂yn)

Σ(∂xk/∂yn)2






gij n
Σ
k=1
∂xk
──
∂yi
∂xk
──
∂yj
=gji   i=jの時gii n
Σ
k=1
∂xk
(───)2
∂yi

一般にベクトルをベクトルに対応させる関数=T()が、

T(a・1+b・2)=a・T(1)+b・T(2)  a, b:スカラー  … (13.5)

という双線形性を持っている時、Tのことを「テンソル(tensor)」といいます。 行列はベクトルに対して双線形性を持っていますから、テンソルとなります。 数学的には共通の因子を持つ数字を縦か横に並べてその間に線形演算を定義したものがベクトルですが、物理学分野では大きさと方向を持った実在する力のようなものをベクトルと呼ぶ習慣があります。 それと同様に、数学的にはベクトルを縦か横に並べてその間に線形演算を定義したものが行列ですが、物理学分野ではベクトルとベクトルを対応させる行列で、物理的な意味を持つものをテンソルと呼ぶ習慣があります。 計量行列は空間の計量という物理的な意味を持っていますから、「計量テンソル」とも呼ばれます。

一般に、座標変換に関してテンソル'TZと変換されますので、反対に「座標変換に関して'TZと変換される」をテンソルと定義することもできます。 この定義は数学的には双線形性の定義と同義になりますが、物理学的な意味合いが強いので物理学者に好まれています。

時空を4次元(3次元の空間+1次元の時間)のリーマン空間と考え、その空間上で物理法則をテンソルを用いて表現した時、一般的な座標変換に関して物理法則の形式は変わらないという原理を「一般相対性原理」といいます。 この一般相対性原理に基づいて、重力場の方程式をテンソルで記述したものが一般相対性理論です。 一般相対性理論は、リーマン空間とテンソルの一般座標変換に関する性質を研究する理論です。