玄関雑学の部屋雑学コーナーベクトルと行列

12.線形変換

1) ユークリッド変換

一般に、座標軸の回転に相当する直交変換に、座標軸の原点をベクトルの先端に平行移動する変換も含めた、次のような変換をユークリッド変換(Euclid transformation)といいます。

=Zx   -1='(正規直交行列) …… (12.1)

この変換はベトクルの位置と方向だけを変え、ベクトルの大きさと2つのベクトルのなす角を変えない変換なので、合同変換と呼ばれることもあります。 ユークリッド変換だけで構成されたベクトル空間は、ピタゴラスの定理が成り立つお馴染みのユークリッド幾何学の世界に対応しています。

2) アフィン変換

変換行列の逆行列-1の列成分ベクトルが必ずしも正規直交基底ではなく、一般的な基底の時すなわち一般的な正則行列の時は、基本的な直交座標系のベクトルを別の斜交座標(座標軸が直角以外の角度で交わっている座標系)から見た時のベクトルに変換します。

=Zx  -1'(正則行列) …… (12.2)
図12.1 アフィン変換

このような変換をアフィン変換(affine transformation)といいます。 アフィン変換では、一般にベクトルの大きさが変化します。 ただし変換行列は正則行列なので逆行列が存在し、逆変換を行うことはできます。 アフィン変換で構成されたベクトル空間は、図形を別の平面に正射影または斜射影する射影幾何学の世界に対応しています。

アフィン変換の例として、2次元ベクトル空間で、基本的な座標軸の一方の軸をθだけ回転した斜交座標軸に斜射影する場合を考てみましょう。 この座標軸の基底は次のようになります。

  
12=1'1=cos2θ+sin2θ=1
22=2'2=1
1'2=sinθ≠0

この斜交座標上でベクトルを斜交分解するということは、をこの斜交座標から見た時のベクトルに逆変換することに相当します。 そのために斜交変換するアフィン変換は次のようになります。


3) ローレンツ変換

また特殊なアフィン変換の例として、次のような変換があります。 光速度をcとして、ある座標から見たある出来事を、位置を表す座標x1と時間を表す座標x2(=ct)を用いて2次元ベクトル'=[x1 x2]で表現します。 この同じ出来事を、その座標系に対して速度vで等速度運動している別の座標から見た時、それをベクトル'=[y1 y2]で表すと、の間には次のような変換関係があります。


 …… (12.3)

この変換をローレンツ変換(Lorents transformation)といいます。 変換行列は正規直交行列ではなく単なる正則行列なので、ローレンツ変換はベクトルの大きさが変化するアフィン変換の一種になります。

座標系(x1, x2)から見た少し離れた2点は1'=[x11 x.2]と2'=[x21 x.2]と表すことができ、その間の距離は(x21−x11)となります。 これを座標系(y1, y2)から見ると次のようになります。 これが空間の縮み(ローレンツ収縮)です。

1'=[x11 x.2]   2'=[x21 x.2]
1'=[y11 y12]   2'=[y21 y22]

また位置は変わらず、時間が少し経過した2点については次のようになります。 これが時間の遅れです。

1'=[x.1 x12]   2'=[x.1 x22]
1'=[y11 y12]   2'=[y21 y22]

さらに座標系(x1, x2)の原点から出た光の経路は、次のような方程式で表されます。

x12=x22

これをローレンツ変換すると次のようになり、変換後も変わりません。 これが光速度不変の原理です。





∴x12=x22

座標系(y1, y2)は座標系(x1, x2)に対して速度vで等速運動しているので、逆に座標系(y1, y2)から見ると、座標系(x1, x2)は速度-vで等速運動していることになります。 したがってに逆変換するの逆行列-1はvを-vで置き換えたものになるはずです。


 (←暇な人は確認して下さい(^_-))
  


ローレンツ変換の行列は、本来は3個の空間座標と1個の時間座標からなる4次の正方行列であり、と書かれます。 このように基本的な直交座標上のベクトルを、ローレンツ変換行列の逆行列-1が表す斜交座標系から見るとどのように見えるかを研究する理論を特殊相対性理論といいます。 特殊相対性理論は等速度運動をしている座標系から物理現象を観測するとどのように観測されるかを研究するもので、数学的にはローレンツ変換の性質を研究していることに相当します。

4) 線形変換

変換行列が必ずしも正則行列でも正方行列でもなく、もっと一般的な行列の時を線形変換(linear transformation)といいます。 一般に、線形変換では必ずしも逆変換ができるとは限りません。 例えば(m, n)型行列を用いて、n次元ベクトルをm次元ベクトルに変換する変換は次のようになります。 この場合、は正方行列ではないので逆行列は存在せず、逆変換はできません。

=Zx …… (12.4)
:n次元ベクトル :m次元ベクトル :(m,n)型行列

線形変換の例としては3次元の立体図形を2次元の平面図形に変換してブラウン管などに表示する、コンピュータグラフィックスにおける3D表示があります。 この変換は立体図形の各点を3次元ベクトルで表し、(2,3)型の変換行列を用いて2次元ベクトルに変換し、それを2次元座標上に表示するものです。 変換行列の成分には座標の角度の情報が含まれており、その角度を適当に変化させることによって、元の立体図形を色々な角度から眺めた時の平面図形を描くことができるようになっています。 3Dグラフィックスの表示速度が遅いのは、線形変換のための行列演算を頻繁に行っているからです。