玄関雑学の部屋雑学コーナーワクチンの有効性と安全性

補足1.集団免疫

補足として、何かと話題になる集団免疫について簡単に説明しておきましょう。 感染症数理モデルを使うと、ある閉鎖集団(人の出入りが無く、かつ質が均一な集団)の集団免疫閾値(臨海免疫化割合)を求めることができます。 そしてその値とワクチン有効率に基づいてワクチン接種率達成目標を求めることができます。 (ワクチン接種率達成目標については当館の「感染症数理モデル 5.最終規模方程式」参照)

・ワクチン接種率達成目標:
 e:ワクチン有効率(0<e≦1)
 :基本再生産数
 :集団免疫閾値(臨海免疫化割合)

BNT162b2のワクチン有効率を、最も控えめに推測した値(95%信頼区間の下限)を使ってe=0.9(90%)とし、SARSコロナウイルス2の基本再生産数をR0=2とすると、ワクチン接種率達成目標は次のようになります。

集団免疫閾値(臨海免疫化割合):1 - 1 2 =0.5(50%)
ワクチン接種率達成目標:p v 0.5 0.9 ≒0.56(56%)

この計算結果から、ある閉鎖集団の56%以上の人にワクチンを接種して50%以上の人が免疫を獲得すれば、実行再生産数Reが1未満になって流行が収束し、再流行しなくなることがわかります。 ただしこの場合、感染者が全くいなくなるわけではないことに注意してください。 集団免疫を獲得すると、たとえ感染者が出ても、その人が1人以上の人に感染させないので再流行が起きないだけであり、感染者が全くいなくなるわけではありません。 ワクチン以外の感染予防対策を何もしないでいると、流行はしないものの感染者が出続け、最終規模方程式で求められた割合(R0=2の時は80%)まで感染すると、ようやく自然終息して感染者が出なくなります

日本では、毎年、10月後半から1月前半までの3ヶ月弱の間に約2,000万本〜2,500万本のインフルエンザワクチンが接種されています。 つまり日本の医療機関には約1,000万本/1ヵ月のワクチン接種能力があるわけです。 しかしSARSコロナウイルス2用のワクチン接種は、誰にとっても初めての経験です。 そのため、せいぜい約500万本/1ヵ月程度の接種能力があれば御の字でしょう。 現在の日本の人口を1億2600万人とすると、その56%は約7,000万人になります。 そして7,000万人にワクチンを2回接種するのにかかる時間は7000×2/500=28ヵ月=2年4ヵ月になります。

一方、BNT162b2によって獲得した免疫の有効時間は現在のところ不明です。 もしこの免疫が一生有効なら日本は2年半くらいで集団免疫を獲得し、COVID-19を克服できることになります。 しかしインフルエンザワクチンのように免疫が半年ぐらいで消失してしまうと、1,500万人くらいしか免疫ができず、集団免疫を獲得できないことになります。 そうなるとインフルエンザのように、毎年、流行期である冬にSARSコロナウイルス2用ワクチンを接種する必要があり、それでもある程度は流行することになります。

現在のところSARSコロナウイルス2の免疫の有効期間は不明です。 そしてし日本は厳密な意味では閉鎖集団ではなく、人の出入りが常にあり、均質でもありません。 そのためワクチンによって集団免疫を獲得できるかどうかは、現在のところ不明です。 でも、いずれはCOVID-19の病態が正確に判明し、ワクチンの有効性と安全性も確立し、有用な治療薬も開発されると思います。 それまでの間は、憂鬱なことに現在のような疑心暗鬼状態が続くと思います。