玄関小説とエッセイの部屋エッセイコーナー選挙四方山話

【エピローグ】

N市のマンションに転居した僕は、会社の仕事と並行して、自分がやりたいと考えていたデータ解析の仕事を試験的にやり始めました。 そしてその仕事に何とかめどが立ちそうだったので、会社の上司に1年後の早期退職を申し出ました。 この頃は会社の仕事をほとんどやっていなかったので、会社の業務で引き継ぐことはたいしてありませんでした。 しかし部署の人員計画は1年後を見越して立てるので、それがスムーズに立てられるように、1年間の執行猶予を持たせたのです。 また、たまたまその翌年に勤続30年になり、特別休暇と旅行券を貰えることになっていたので、それをありがたく頂いてから退職しようという、セコイ考えもありました……というよりも、実際にはこっちの理由の方が大きかったんですけどね。(^^ゞ

転居してしばらくの間は、元の土地の人から電話で質問や相談を受けたり、メールをもらったりしていました。 しかしそれもだんだんと間遠くなり、その土地での出来事が僕の記憶から急激に薄れていき、何となく、はるか昔に見た夢の中の出来事のように思えてきました。 そこで、それらの記憶が忘却の彼方に過ぎ去ってしまわないうちに、何とか記録を残しておこうと考え、当館の会議室に「ある地方議員後援会の理想と現実」と題して、後援会活動に関する書き込みを始めることにしました。

その後は、数ヶ月に一度くらいの頻度で元の家に行き、家がカビで占領されないように、掃除をしたり風を通したりしています。 そういった折に、新町会議員のRさんに会ったり、近所の人から話を聞いたりしたところでは、Rさんは次第に自分の考えを表に出すようになり、後援会の幹部の人達と意見が分かれることが多くなったようです。 そこで後援会の幹部の人達は、ずっと以前の町会議員の息子さんを説得し、次の町会議員に立候補するよう働きかけを始めたらしいとのことでした。 そしてその結果、その息子さんは自ら区長になり、町会議員になる準備運動のようなことを始めたという話です。

さらにその後、市町村合併があり、そのT町は市になり、町長のDさんは市長になりました。 その時にも、市長派の人達と反市長派の人達の間でひと悶着あり、裁判沙汰やら何やら相当な騒ぎが起きたとのことでした。 そしてさらにその後、市長選挙があり、市を真二つにしての大騒動を経て、今度は反市長派が推薦した人物が当選して、Dさんは落選しました。 すると例の特殊な政治団体K会と後援会の幹部は、またしても手のひらを返したように現市長派から新市長派(元反市長派)に寝返り、すぐさま区長を連れて当選祝いに駆けつけ、ひたすら忠誠を誓ったそうです。

しかしそういったことは、今の僕にとっては、まるで遠い異国の噂話のようにしか思えなくなっています。 僕の、自分でももてあまし気味の気まぐれな好奇心は、自治会活動や後援会活動といったものには、もはや食指を動かされないようです。 その代わり、この厄介な好奇心は、またしても僕を別のとんでもない世界──ベンチャービジネスの世界へと引きずり込むことになります。 そのとんでもない世界の裏表については、また別の機会に、また別の物語としてお話しすることにしましょう。

それでは、「選挙四方山話」はこれで一応終わります。 長くてさもしい話に辛抱強くお付き合いいただき、本当にありがとうございました。m(..)m